フォーラム - neorail.jp R16

A列車の誤解(曖昧さ回避)


発行:2014/10/22
更新:2015/12/11

[2959]

【実例に見る日英対訳】

実例に見る日英対訳(1) 訳せない「大人の休日・ジパング倶楽部」ほか


(約4000字)

 英語の話の続きです。

[2958]
 > つまるところ、レゴブロックの組み立て図ですね。数字と絵、矢印しかありません。そして世界共通です。

 とはいえ、図解できる内容には限度があります。固有名詞は図解のしようがありませんので、路線名や列車名、改札口や出口、出口周辺のランドマークの案内などは、文字に頼るしかありません。そこでは、日本語と、発音または意味を知らせるための情報としての英語、そして十分に標準化され誤解が起きないように配慮されたピクトグラム(一種の図解ともいえますが、絵文字的な意味で言語的です)が重要になってきます。

※固有名詞をハングルや中国語で表記することには、あまり意味はないといえます。よほどニーズがあれば、例外的に併記するとよいと思いますが、すべてに必要とまではいえないと思います。ここで、ニーズがあるかないかという主観的で恣意的な判断をしなければならず、その責任から逃れるかのように、あらかじめすべてを4か国語で表記しておこうというのは、言語道断であります。その分、文字が小さくなってしまい、結果として誰のためにもなりません。(⇔誰もが不便します。)

[2909]
 > Higher Class
 > Upper Class

 開業50周年を迎えた東海道新幹線ですが、建設費の融資に関する資料で「Superior Class」という表記があるらしく、国鉄としては「グリーン車」の対訳としてこれを使っていたらしい、とわかりました。JRになってからも生きているのでしょうか。

 「グリーン車」に限らず、よくわからない日本語の固有名詞が駅にあふれています。そして、これを英語でどう案内するのかが問題になってきます。英語では案内しない、という消極的な対応もあるでしょうが、日本語の表記に英語の表記を併記することは、もはや機械的に求められることになってきており、日本語しか書いていないサインや掲示物(貼り紙やポスター)を掲出することが、海外から見て「言語の上での差別」だとみなされても、反論はできません。悪意がなければ許される、ということはなく、「不作為」(何もせず手をこまねいていること)の責任が問われてきます。この点では、明石歩道橋事故にも通じるものがあります。

・「手をこまねく」
 http://www.bunka.go.jp/publish/bunkachou_geppou/2012_10/series_10/series_10.html

[2957]
 > > 【指定例】成田空港〜東京駅、上野駅、新宿駅

 実際にどう指定されたのかは調べていませんが、おそらくはこの通りに指定されたのでしょう。そして、ここで挙げられている上野駅で、おそらくはこの指定(「外客誘致法」に基づく指定)に応えるべく設置されたと見られる、比較的、新しい「出口・のりかえ案内」の黄色地(!)の固定サインでは、以下のような表記が見られます。

※黄色ければいいって、そんなもの(※)、「八王子ぃ」([2950])、「黄色という色」([2731])なども参照。

・個人のブログ「上野駅構内案内板チェック(2)」(2011/4/6)
 http://okiraku-goraku.com/2011/04/2-22.html

※私が見たのはつい最近なのですが、2011年から設置されていたようです。

・「みどりの窓口」(Ticket Office)
・「びゅうプラザ」(Ticketing and Travel Service Center)
・「ジャイアントパンダ待ち合わせ場所」(Giant Panda Waiting Place)
・「お忘れ物承り所」(Lost & Found)
・「東京スカイツリーへは銀座線/浅草駅から東武線へ乗り換え」(For TOKYO SKYTREE, take the Ginza Line to/Asakusa and transfer to the Tobu Line)※「/」は改行、文末にピリオドなし
・「JR東日本 大人の休日・ジパング倶楽部事務局」:英語の表記なし(※)

※どう訳すのでしょうか。「The 'Otona-no-Kyujitsu' and 'Zipangu Club' (Travel Service for middle-aged couples) Office」とでも訳すのでしょうか。国際的には、年齢や性別、未婚・既婚の違いによる差別だといわれかねません。訳したくない、表記したくない、というのもわかるような、わからないような。もちろん、国内的には社会保障制度上の年齢区分に応じたもので、きちんと根拠があります。営業上の施策でもあるので、広告的な観点から名称がつけられているのも当然ではありますが、いま、新しく作るとしたら、こんな名前にも、こんな制度にもならないのではないかと思います。かといって、やめるわけにもいかないのでしょう。

 さらに、「びゅうプラザ」の下に階層化する形で(インデント=字下げして)、「案内カウンター」「きっぷうりば」「指定席券売機」が並び、さらには、この階層関係をまたぐ形で、「みどりの窓口」と「きっぷうりば」の両方に同じピクトグラム(指定席を連想させる、ゆったりしたシートでくつろぐ客の図)が使われています。日本語がわかると日本語でわかってしまうので、日本語表記をすべて目隠しして、英語とピクトグラムだけでわかるかどうか(曖昧さが残っていないか)、というチェックをしないといけません。

 日本語の「待ち合わせ場所」に対する英語の「Waiting Place」はひどい直訳で、とはいえ「lobby」や「lounge」と呼ぶには設備面で追いついていないという、苦しい現状があります。解決策としては、空港にならってしかるべきグレードの「lounge」を整備するとともに、日本語でも「ラウンジ」と呼ぶ、あるいは、「待ち合わせ場所」として使うかどうかは利用客の勝手であるので、単にランドマークとなるオブジェ(記念碑や芸術作品の類)のありかとして、「『銀の鈴』オブジェ」「『動輪』オブジェ」「『ジャイアントパンダ』オブジェ」とし、英語でも「The 'Gin-no-Suzu(Silver Bell)' objet」「The 'Dorin(Wheel of Steam)' objet」「The 'Giant Panda' objet」などと表記するという方法もあるでしょう。

・上野駅「ジャイアントパンダ待ち合わせ場所」の写真(The 'Giant Panda Waiting Place' in Ueno sta., Japan.)(2007/1/20)
 http://www.panoramio.com/photo/31823754

※「モニュメント(monument)」なのかな、とも思ったのですが、辞書を引くと、故人の彫像や慰霊碑、あるいはずばり墓標となってしまうことがわかり、不適切といえます。「ああいうの」(「銀の鈴」や「動輪」、それに「ハチ公」など)を何と呼べばいいのか、というのは、なかなか根源的な問いかけのような気がします。

 「お忘れ物承り所」(おわすれものうけたまわりじょ:'Owasuremono Uketamawarijyo' in Japanese)は、英語のほうが直感的で(「お忘れ物!」と単語だけ叫んでいるようでありながら、英語ではさほどぶしつけな印象はないのではないかと思います)、日本語のほうが不必要に丁寧すぎます。

・「Overwhelming Politesse: Does English Tread More Softly Than Other Languages?」(2011/10/25)
 http://www.altalang.com/beyond-words/2011/10/25/overwhelming-politesse-does-english-tread-more-softly-than-other-languages/

※上には上がいるといいましょうか、丁寧さなんて、そんなの相対的なものだと、そんなもの(※)、とも感じます。

※ロシア語やフランス語への対応まで必要となると、いったいどれだけの言語に対応すれば十分なのか、という新たな線引きが必要になります。そうなるのを防ぐ一種の「防波堤」として、「日本語と英語だけ」というポリシーを確立しておくことは、重要なことといえます。

 「承り所」という表現になるのは、他人の「お忘れ物」を預かる(拾得物を受け付ける)窓口と、自分の「お忘れ物」を照会したり引き取ったりする(拾得物を返す)窓口とを兼ねているからです。とても正確な表現だと思いますが、拾得物を受け付けるほうは「承り所」に限定されないと思いますので(どの窓口でも、または窓口でなくても、係員にいえば「承って」くれるはず)、実質、自分の「お忘れ物」に気づいて慌てている人のための、あるいは、電話で照会したところ上野で保管しているので上野へ出向いて引き取るようにと指示された人のための案内ですから、これはもう、単に「お忘れ物センター」(大阪市交通局など)とか「お忘れ物保管・引き渡し窓口」(郵便局みたいですね)と表記すればいいのではないでしょうか。

・「遺失物」
 http://ejje.weblio.jp/content/%E9%81%BA%E5%A4%B1%E7%89%A9

 > 遺失物取扱所
 > 《主に米国で用いられる》 a lost and found (office)
 > 《主に英国で用いられる》 a lost property office.

 なお、鉄道会社での保管期間が過ぎると、警視庁の「遺失物センター」に送られます。まさに、ずばりな名称ですね。とはいえ、日本語でいう「ナントカセンター」は、本来の意味でセンターでない限りは、英語ではきちんと「Office」と訳すことが望まれます。

・警視庁「警視庁遺失物センター案内図」
 http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kouhoushi/no4/welcome/annai.htm

・「センター」
 http://ejje.weblio.jp/content/%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%BC

 > 〈施設〉 a center

 (物理的、空間的な意味で)集約・複合的な施設をセンターと呼び、ある単一の業務を集約して行なう部署という意味では、やはり「Office」とするべきであるといえます。


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