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恥ずかしながらニュースを見逃しておりまして、かの知恵袋で知ったというていたらくであります。
・Yahoo!知恵袋「黒磯駅の「継電連動装置取替・き電簡素化」とはどの様なプロジェクトでしょうか?」(2014/6/19)
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10130796275/a331390042?open_reply=1
> 他の切換区間と異なり、継電器(連動装置)で直流と交流に切り替えることができます。そのため直流車と交流車が構内に進入できます。
> 2ch等で流れている噂を整理した感じですが、根拠がまるで無いので信用できないと思っています。
> 具体的な情報は有りますか?
> 交通新聞に記事があります。業界紙ですので、かなり確度の高い情報と理解しています。
> 以下コピペ。
※なかなかにイジワルな(いい意味で[2965])質問者さんですねぇ。
交通新聞の内容をきちんと理解できていれば、最初のような回答にはなりえないはずです。自分なりに咀嚼(理解)できていないからこそ「以下コピペ。」になってしまうということでもあるでしょう。
> 東北本線は、黒磯駅を境に架線の電源が直流と交流に分かれますが、他の切換区間と異なり、継電器(連動装置)で直流と交流に切り替えることができます。そのため直流車と交流車が構内に進入できます。
> この切換装置が老朽化したため、工事をしなくてはならないのですが、その方法として継電器を取り替えるのではなく、黒磯駅構内を全て直流化して、車上切換のためのデッドセクションを黒磯駅の北側に移動します。
> しかし、そのままだと北から黒磯駅に入線できないので、新白河駅に折り返し設備を設置する工事も同時に行い、新白河以北と黒磯の間は、交直流電車、気動車、あるいはEV-E301系のような蓄電車など、デッドセクションを越えられる車両が走行することになると思われます。
私もよく知らないので一つ一つ調べながらになりますが、この回答の中には、いくつかの誤解や曖昧な表現が混じっていることがわかります。
・正:黒磯駅を境に直流と交流
・?:継電器で直流と交流を切り替え
・誤:継電器(連動装置)→正:継電連動装置(継電器=リレーを使用した、古い型の連動装置=信号とポイントを切り替える装置)
・誤:連動装置で直流と交流を切り替え
・?:デッドセクションを移設
・?:直流車と交流車が構内に進入できる
・ウィキペディア「黒磯駅 交直接続の駅」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%92%E7%A3%AF%E9%A7%85#.E4.BA.A4.E7.9B.B4.E6.8E.A5.E7.B6.9A.E3.81.AE.E9.A7.85
> 東北本線は当駅を境に南側は直流1,500V、北側は交流20,000V・50Hzで電化されていることから、当駅には日本では現存唯一の地上切り替え方式の交直接続設備がある。駅構内の架線は直流・交流の両方に切替られるように区分(セクション)されており、またその区分境にはデッドセクションとそれを表示する電車線区分標があり、また構内の信号機には直流または交流が加圧されていることを表示する架線電源識別標識が取り付けられている。
ウィキペディアは用字用語が必ずしも正しくないので直したいと思いますと、「国内で現存するものとしては唯一である『地上切り替え方式』の交直流切り替え設備」とでもなるんでしょうか。「交直流」の「流」を省略してしまっては、意味不明です。「現存唯一」などという語を勝手に作ってしまうのも(百科事典の記事としては)いけないことです。
では、現存しないものとしては、いつからいつまで、どこにあったのでしょうか。そして、なぜ現存しないのでしょうか。
・個人のページ「仙山線 作並機関区 1」
http://satoyama.in/auto/sharyo/auto211.html
> 仙山線の作並機関区はわが国の交流電化発祥の地
> 1937年に一部分が直流電化区間として開通した仙山線の山岳線部分(作並〜山寺間)のために、電気機関車の基地が作並に建設されました。
> 交流電化の試験をするために1955年に陸前落合〜熊ヶ根間が日本で初めて交流で電化されました。色々な方式の交流電気機関車や交流電車が比較試験され、作並機関区は日本で始めての交直流接続駅となり交直流地上切替設備が設置されました。
> 仙台と山形を直通するには交流電化区間と直流電化区間を通して運行しなければなりません。
> 1968年に奥羽本線の交流電化のために作並〜山形間の電化方式が直流から交流になり、現在のように交流電車や交流電気機関車が通し運転できるようになりました。
作並のケースでは、直流区間を交流化して、交流電化に一本化したほうが、取り扱いが煩雑でミスを誘発しかねない「切り替え方式」よりも合理的だ、という判断ですね。
だからといって交流で万事解決かといえばそうでもなく、電化方式の違いというのは、いわば現在進行形の話題であります。
・河北新報「仙石線、来年6月までに全通 東北線乗り入れも」(2014/7/31)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201407/20140731_12022.html
> JR東日本仙台支社は30日、東日本大震災で被災した仙石線の全線運転を2015年6月までに再開すると発表した。仙石線が東北線に乗り入れる接続線を利用する列車は、再開に合わせ運行を開始する。
> 仙石線の東北線乗り入れは、仙石線松島海岸−高城町駅間と東北線塩釜−松島駅間で両線が近接する区間に設ける約300メートルの接続線を活用する。接続線を通る列車は「仙石東北ライン」として仙台−石巻駅を約1時間で結ぶ想定。
・JR東日本 仙台支社「仙石線の運転再開等について」(2014/7/30)
http://www.jr-sendai.com/wp-content/uploads/2014/07/sensekisen.pdf
> (仙石線・東北本線接続線経由の列車は、新しい運行経路となることから、愛称名を「仙石東北ライン」とします。)
・JR東日本 仙台支社「仙石線と東北本線との接続について」(2012/10/18)
http://www.jr-sendai.com/wp-content/uploads/2012/10/press_20121018-sensekisen.pdf
・宮城県「みやぎニュースクリップ/仙石線の東北本線乗り入れに関する共同記者会見(平成24年10月18日)」(2012/11/1)
http://www.pref.miyagi.jp/site/newsclip/nc-121018-2.html
・宮城県「仙台都市圏パーソントリップ調査/第1回地域懇談会(南部地域)を開催しました」
http://www.pref.miyagi.jp/site/pt/pt-commni-kondan-nanbu.html
JR在来線の交流電化で使われている交流20,000ボルトでは、どのくらいの大きさの開閉器(スイッチ)になるのか、イメージをつかむために、下記を参照してみましょう。
・日立評論「送配電および変電用機器」(1964)
http://digital.hitachihyoron.com/pdf/1964/01/1964_01_seika03.pdf
> 3.5.3 国鉄東海道新幹線変電所用配電盤
> (2) 帝都高速度交通営団上野中央司令所納集中遠方監視制御盤
> 上野中央司令所納集中遠方監視制御盤を38年5月完成納入した。
> 従来営団では全線20個所の無人変電所を3〜5変電所の単位でブロックごとにローカルセンターから遠方制御していたが,本装置により,上野に新設された中央司令所から全変電所の集中遠方制御を行なうもので,今回完成したものは特高系統制御用の集中制御盤で,今後逐次既設の遠方制御設備の移設を行ない,集中制御を実施してゆくものである。
> 3.6.4 電気鉄道用SR
> 日本国有鉄道山陽本線用3,000kW 1,500V SRをはじめ2,000,1,500,500kW SRを多数完成した。特に第32図に示す京浜急行電鉄納3,000kW SRは過負荷定格400% 20秒で地上変電所用SRとしては最大容量器である。
> 東京急行電鉄納3,000kW SRは,都心に設置されるため騒音の低いことが必要で,送風機および冷却風より発生する騒音を吸音装置により吸収した低騒音整流器である。
> 3.6.10 直流変電所制御装置
> 東武鉄道株式会社六実変電所 1,500V 2,000kW
> 東武六実変電所には変電所の時計制御,き電線の事故判定装置,故障電流の増加分ΔIと故障時に軌条電位が増加する量を検出する撰択遮断装置を製作納入した。
…あまり参考になりませんでした。とはいえ、このときに納入された最新(当時)の設備が、30〜50年ほど経って更新されていっているわけです。六実変電所が云々で新型車両が走れない云々といわれていた東武野田線でも、いまや新型車両が走っております。
・明電舎「(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構 東北・九州新幹線納入変電設備・配電設備・電車線設備」(2011/4)
http://www.meidensha.co.jp/pages/tech/tech01/review-201104/article-201104-0039.pdf
> 第10図 36kV切替用開閉器
> 2.6 電鉄用配電盤
> 集中形次世代デジタル継電器を採用
リレーがデジタルとは、どういうことかと思いましたが、要はリレーに制御機能や遠隔監視機能を付加した統合型の製品が各社から発売されているということでした。リレーそのものは、デジタル化しようがないですよね。
・三菱電機「ディジタル形保護継電器(MELPRO-Dシリーズ)」
http://mitsubishielectric.co.jp/fa/products/mv_distri/protection-relays/d_series/index.html
> 特高系統から高圧系統に適用する受配電設備及び機器(変圧器、発電機、モータ等)の保護に必要な保護要素をコンパクトにした複合形の継電器。通信機能(CC-Link)を有することで遠方監視も可能となります。
傍題になりますが、このような配電盤のデジタル化によって、「鉄道と電気技術」11月号の目次([2975])にあるような「停電の自動化」がトピックに上がってくるということでもあるでしょう。
本題としては、このように、配電盤に使う「継電器」と、継電連動装置が混同され、「継電器で直流と交流を切り替え」「継電器(連動装置)」といった曖昧な表現につながったとみられます。もちろん、連動装置での進路制御にも「架線電源識別」の機能が必要となり、そのためのI/Fもまた、継電器で構成されてあるかもしれません。継電器(リレー)そのものは、ただのスイッチですから、どこにでも使われるもので、「継電器で何かする」という表現自体が、ああ、よくわかってないなぁという表現だといえるのです。
※例えてみれば、「箸を使って食事をする」というくらいの話で、箸を使う人にとっては、なんということもない一方、箸について知らない人から見れば、なんともエキゾチックな話に感じられるということです。
とはいえ、電気というのは物理現象ですから、物理法則が変わらない限りは、開閉器の大きさや電線の太さは変わらない(極端には小型化できない)といえます。それなりに大きなものが、現状では黒磯駅に設置され、列車が出入りするたびに切り換えが行なわれて、磨耗したり劣化したりしているんだ、といったイメージを持っておけばよいのではないでしょうか。なぜ直流化されるのかが、イメージをともなって理解できるかと思います。
宇都宮線では、上野から見て、黒磯の一つ手前の駅となる那須塩原までを対象に、ATOSが導入されています。運転系統の上では黒磯までATOS(≒東京の指令室)によって一続きで管理されるほうがよさそうなのにどうして? と思っていましたが、こういう背景があったのかと、いまになってわかった次第であります。
仮に、交直流の「地上切り替え方式」のままで、電子連動化やシステム化(駅扱いを残さない形で)を行なうとなると、ウィキペディアでいう「架線電源識別標識」の制御や表示を、システムの機能として実装しなければならなくなってしまいます。しかも、がんばって実装したとしても、これは黒磯駅でしか必要とならない機能です。こんな無駄なことがあるでしょうか。
黒磯の構内全体が直流化されるのは当然の流れで、「交直流接続駅」という重荷(=電源のためだけの、ローカルな需要には見合わないほどの要員の配置)から解放されさえすれば、東海道線の小田原くらいにフツーの駅になります。宇都宮線のATOSを黒磯まで延伸することも、とても現実的で合理的な話になってくると思います。リンク先で「コピペ」されている交通新聞(とされる)によれば、電子連動化が2017年度末とのことですので、2018年度から2020年度にかけて、古い設備の撤去がてら、黒磯駅の進路制御を駅扱いからATOSへと移管していくのではないかとみられます。
※そして実際に延伸となるまでの間には「木更津(みたいな状態)だ」とか「仙台(みたいな状態)だ」とか、「にわか」とか「もどき」などと呼ばれるのですね、わかります。
余談になりますが、根拠を問われて「交通新聞」をマジックワードとするような態度は好ましくないと思います。ウィキペディアでも、個人のページでも、内容の信頼性を自分で評価して、自分の目的に照らして十分な信頼性を持っていれば、自分の目的のためにはどんどん活用していけばよいのです。「わかりやすい情報教育」の普及のいわば副作用ともいえましょうが、何があってもウィキペディアから引用してはいけないとか、個人のページはいっさいまかりならんといった態度では、自分で考えるという素養がいつまでも育たないことになってしまいます。
・「まかりならん」
http://www.weblio.jp/content/%E3%81%BE%E3%81%8B%E3%82%8A%E6%88%90%E3%82%89%E3%82%93
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