フォーラム - neorail.jp R16
発行:2015/4/9
更新:2016/2/13

[3027]

【報告書から読み解く鉄道の未来】

「京葉線とりんかい線の相互直通運転に関する利用実態他調査結果」を読み解く


(約6000字)

 [2963]の続報です。少し長くなりますが、一連の内容を一定の順序でお読みいただきたく、1つの記事(発言)としてまとめます。

・読売新聞「りんかい線3万4000人増…京葉線直通で」(2015年4月8日)
 http://www.yomiuri.co.jp/local/chiba/news/20150407-OYTNT50417.html

 > 千葉市は7日、JR京葉線と東京臨海高速鉄道りんかい線の相互乗り入れ・直通運転の実現に向け、京葉線沿線自治体とともに行った利用実態調査の結果を発表した。
 > 沿線自治体などの協議会から委託を受け、調査研究会社が昨年10月、東京駅と新木場駅で乗降客を対象にアンケートを実施。約6000人の回答を分析した。
 > 調査結果は、JR東日本や東京臨海高速鉄道に送付された。千葉市交通政策課は「今までは相互直通運転の利点を示すデータがなかった。今回の結果を基にJR東、東京臨海高速鉄道と協議を進めていきたい」としている。

 上掲の新聞記事にある「調査研究会社」の社名は千葉市のサイトで公開されていますので、特段、伏せる必要はありません(が、新聞記事としては特段、言及する必要もないという判断ですね)。

・「調査研究会社」
 http://www.city.chiba.jp/toshi/toshi/kotsu/sougochokutsu-hacchu.html

 > 契約の相手方 株式会社 日本能率協会総合研究所 千葉事務所
 > 契約金額(税込み) \9,720,000円

※「\」(通貨記号)と「円」が両方ついています。試しに目をこすってみましたが、やはり両方ついています。

・日本能率協会総合研究所(JMAR)「モビリティ」
 http://www.jmar.co.jp/job/mobility/index.html

 いくつも会社がある中から適切に選ばれたものと思いますので、特段、言及する必要は(このフォーラムでも)ありません。どんな会社が調査を受託するのか興味がありましたら、会社のページを参照いただくと勉強になるかと思います(という意味合いでURLを載せておきます)。

[2963]
 > ※(略)早く結果を見たいですね…といっても、年度末(もしくは4月1日)にならないと出てこないという。

 4月7日に出ました。そして[3020]で訂正しました通り、「次期答申」に間に合います。

 このフォーラムでは、新聞記事だけを読んで済ませるのでなく、調査結果そのものを読み解くことを目指しましょう。

・千葉市 都市局都市部交通政策課「京葉線とりんかい線の相互直通運転に関する利用実態他調査結果について〜相互直通運転の実施効果を分析〜」(2015年4月7日)
 http://www.city.chiba.jp/somu/shichokoshitsu/hisho/hodo/kisyaha2704.html
 http://www.city.chiba.jp/somu/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/150407-02-01.pdf

 まず、この調査は▼「大都市交通センサス」のデータからのシミュレーションと、▼アンケート(街頭配布およびWeb)の「2本立て」になっています。このことは新聞記事だけでは理解が難しいですね。実施の順序としてもこの順で、先にデータからのシミュレーション(流動パターンの分析)を行なって課題を洗い出し、それらの課題に関する利用客の問題意識(「乗り継ぎ問題意識」)を探るべく設問を用意してアンケートを行なった、という流れになっています。

 そして、建前としてはアンケートの結果を受けて「利用動向分析」を行なったということになりますが、実態としてはアンケートは「利用動向分析」の前提条件(相互直通運転を行なうと利用者がヨロコブ)の適切さ(確かにヨロコブとみられる、何割の人がヨロコブとみられる等)を示すための傍証であって、「利用動向分析」そのものはアンケート結果と関係なく分析(シミュレーション)が可能です。

 以下、調査結果(あるいは新聞記事)に目を通したときに、少しひっかかる部分(わかりにくい部分)に絞って取り上げます。

※「読み解く」と題しながら、全面的な解説をする余裕がなく、恐縮です。


・同「別紙1 流動パターン・乗り継ぎ問題意識」
 http://www.city.chiba.jp/somu/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/150407-02-02.pdf

 > ○新木場駅乗り継ぎで渋谷区の移動がみられる。りんかい線経由だと運賃が割高となるが、移動時間が他のルートとそれ程変わらないため、この流動があると考えられる。

 表「新木場駅(駅利用者)」を見ますと(※)、千葉県内と「渋谷区」の間の移動(トリップ)では、蘇我より先(という定義だとみられますが明記はされていません)となる「内房・外房」で最も多くなっています。「渋谷区」に次いで、りんかい線内の乗車距離が長い「品川・目黒区」も合わせますと、「内房・外房」からのトリップの7割超(表から読み取れる「渋谷区」約7.5%+「品川・目黒区」約65%=約72.5%)を占めています。

※表に表番号が付いていないので参照(指示)しづらいですねぇ。

 別紙1にある「所要時間云々」も、もちろんありましょうが、それ以上に、(蘇我より先の内房線・外房線から、座れずに乗ってきて)「蘇我から始発の京葉線に座れる」「新木場から始発のりんかい線に座れる」という、いわば「ダブル着席」を駆使して日々の中・遠距離通勤(通学)を乗り切ろうという工夫(苦労)がにじみ出ているように感じられます(※1)。逆に、この経路で定期券を買ってしまうと、朝は良くても帰りに着席できません(並べば必ず座れるという保証がありません)。あえて回数券(※2)を駆使して、帰りは(山手線で座れずに乗ってきて)「東京から始発の京葉線に座れる」としている、あるいは「品川・新橋から総武快速(君津行き、上総一ノ宮行き※3)に座る(座れる保証はないが、東京から乗るよりは座れそう)」「千葉から始発の内房線・外房線に座れる」としている玄人な方も、結構いらっしゃるかもしれません(※4)。「ダブル着席ライト」とでも呼びましょうか。

※1 東京側から千葉市までの京葉線沿線の自治体(市)しか入っていない協議会としては関知しない部分ですので言及していないということでしょうか。(実務としては当然だとは思いますが、それでもなお)それでいいんでしょうか。とはいえ、北関東をいっさい無視するパーソントリップ調査([2939])と違って、きちんと「内房・外房」が入れてあるのは好感が持てます。

※2 目的が通勤だから定期券の客、と決めつけることができるほどには、いまは画一的な勤務体系にはなっていない面があるかと思います。通学にあっても、交通費を節約すべく時間割を工夫して(度が過ぎると本末転倒ではありますが)曜日を絞り込み、回数券でまかなう大学生も、それなりに多いかと思います。

※3 総武快速の君津行き、上総一ノ宮行き、それに成田空港行きは、(歴史的に)こぞって横須賀線内発となっており、夕ラッシュ時に東京始発で座れて遠方まで直通できるのは(ライナー、特急を除いて)通勤快速の成田行きぐらいのものです。「お客さま」のニーズに合っているようないないような、何ともいえないダイヤ(編成)が続いています。「3年目以降」([2966],[3024])には、いろいろ変わってくるのでしょうか、それとも変わらないのでしょうか。

※4 行きと帰りで発着地は同じでも経路は違うというケースについて、十分にデータがあるのかないのかわかりません。京王線や東武線、西武線で特殊連絡定期券が発売されるに至った背景そのものですが、同じことはJRでもあると思います。


 次に「利用動向分析」です。

・同「別紙2 利用動向分析」
 http://www.city.chiba.jp/somu/shichokoshitsu/hisho/hodo/documents/150407-02-03.pdf

 > 利用動向は分析年次を平成36年度とし、相互直通運転について、実施しない場合(ケース0)、現在の運賃体系で実施した場合を2ケース(ケース1、ケース2)、りんかい線の運賃をJR並みとして実施した場合を2ケース(ケース3、ケース4)の計5ケースについて分析を行った。

 2024年度ですね。仮に「2015年度中」に「位置づけ」され、工期7年くらいとしますと(何の工期であるかは前後の記事から推測ください)、2017年度には着工しないと間に合いません。そこまで急展開(「超快速」なるいま「超展開」?)できるのか(一般にも、沿線の市としても)不明で、そういうこともあって「ピーク時6本/時」という、かなり控えめな想定しかできていないのでしょう。これ以上の本格的な相互直通運転については(沿線の市としては手に余る話で)、千葉県による調査([3020])を待て、ということになります。

・「超展開」(予想できないことを楽しむ、そこに期待をかける、の意)
 http://www.nzu.ac.jp/blog/takakita/archives/date/2012/09/07

※そういうことがあるとみられますから、今回の調査結果を見て「たった6本/時の直通なんて無意味だ」的な受け止め方をするだけでなく、市や区と都や県の分掌についてもそれとなく理解しておきたいところです。

・読売新聞(再掲)
 http://www.yomiuri.co.jp/local/chiba/news/20150407-OYTNT50417.html

 > 効果を最も小さく見積もっても
 > 効果を最も小さく見積もった場合でも

 記事に出てくる人数は「別紙2」の「2.京葉線(武蔵野線)・りんかい線の乗降人員の推計」のところの表から読み取れる数字(ケース1の数字からケース0の数字を引いた数字)ですね。記事中に出てくる「場合」は、いずれも「ケース1」を指していることがわかります。

 ただ、「ケース1」は「現在の運賃体系で実施した場合」で、かつ、京葉線内では蘇我−新木場間で増便なし、新木場−東京間で(りんかい線に振り向けた分がそっくり)減便とする想定です。他のケースとの比較は、あくまで条件の組み合わせの違いであって、何かの指標や確率の大小で比較したものではありませんから、新聞記事にあるように「効果を最も小さく見積もった」と言い換えてしまうのは適切ではないように思えます。

 大小で比較、という例を挙げるなら、りんかい線直通列車の本数が少ないと、任意の発駅においてりんかい線直通列車を選んで乗車するための待ち時間は長くなり、結局、今まで通りに新木場で乗り換える利用者が多くなる、結果として利用者が直通列車にほとんど移転しなかった、ということもありえます。これは、ケース1からケース4のいずれにおいても起きることで、さらに、ケースの違いとは独立に、どのくらい移転するかを左右する変数が別にある、ということになります。

※遠い意味では「運賃体系」と「直通列車の本数」の場合分けをもって移転の度合いの大小を比べたともいえますが、かなり間接的ですから、記事のように言い切るのは躊躇されるかと思います。

 上述の「ダブル着席」も考慮すれば、京葉線内の途中駅から乗車する利用者には直通列車は敬遠され、あるいは直通列車に乗って新木場のりんかい線ホームで一度降り、そこから始発列車で座ろうという利用客も出てくるはずです。

 (調査結果の中で繰り返し強調されているように)新木場駅の乗換経路上では混雑が減ったとしても、[2963]で前述のように新木場の手前の駅のホームや、さらに新木場のりんかい線ホーム上の滞留が増えてしまう恐れが高まります。今回の調査では、このような一種の「副作用」については言及されていません。


 この調査で想定されているような「相互直通運転」が数年のうちに実現するかのような期待を持つのは、あまり(かなり)報われないことであるかもしれません。今回の調査の全体が、これから行なわれる千葉県による調査での「ケース0」(ベースライン)にあたるともいえ、より抜本的な「大増発!」と比較するときに活きてくることでしょう。この調査の想定通りになることは十中八九ない(※)としても、調査自体は意義深いといえます。

※あくまで推測ですが、どう考えてもありえないように思います。どうしても実現を、といえば、2024年度を待たずに、すなわち沿線の利用者が増えないうちに、ピーク時3本/時程度の「特別快速」やライナー(東武線のTJライナー的な、通勤形車両での運行を含みます)を(つかの間だけ)実現していくことは可能かもしれませんが、想定通りに沿線の利用者が増える、さらに直通運転の「効果」で輪をかけて増えるとなると、早晩、(収支でなく旅客流動の上で)成り立たなくなってきます。また、新木場の手前の駅のホーム上での混乱を避けるため快速運転をするとなれば、浦安市などでは「りんかい線直通列車」の恩恵も受けられず、各駅停車もいくらかは減便せざるを得ないという、結局のところ誰(どの地域)のための施策なのか、よくわからない状態になってしまいかねません。…やはり、ありえないと思います。


 もっとも、「調査研究会社」としては上記のいっさい、百も承知でありながら、発注側の目的や予算に応じて、できる仕事は大幅に制約されますから(ほんの一部しか調査できない、設問数やケース数も限られる等)、受託した範囲ではこういう調査結果が出て当然ということかもしれません。

※別の業界で例えれば、情報システムの新規構築が予算化しづらい(後から後から要求が出てくる)という構図と似ているといえば似ています。

 自治体の中には、自前でシンクタンク機能を持とうという動きも見られますが、市町村レベルではなかなか難しい面がありましょう。また、「地元目線」が強くなりすぎれば、広域を見渡しての政策や計画の立案が阻害される(本来、争うべきでない地域間で不毛な「綱引き」をしてしまう)ことにもなりかねません。本件(京葉線とりんかい線の相互直通運転)に限らず、難しいところです。

・「自治体シンクタンクの動向:自治体シンクタンクへの2つの提言」まちづくり研究はちおうじ(2005年3月)
 http://www.city.hachioji.tokyo.jp/dbps_data/_material_/localhost/soshiki/seisakushingishitsu/kenkyukaigi/0220.pdf

・八王子市「八王子市都市政策研究所」
 http://www.city.hachioji.tokyo.jp/seisaku/toshiseisakukaigi/

・宇都宮市「うつのみや市政研究センター」
 http://www.city.utsunomiya.tochigi.jp/machizukuri/shiseikenkyu/003135.html


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