フォーラム - neorail.jp R16
発行:2015/6/8
更新:2017/12/7

[3062]

【車両とサービスの協調設計(co-design)】

「30年に1度」のリデザイン〜「901系」とE217系、そしてE235系


「901系」「E993系」「E331系」をふりかえる
線路設備モニタリング装置、2018年度までに運用態勢を構築
運転台が高いE235系

(約7000字)

 [2988]に続いて、車両の開発に関する話題(※)です。

※車両そのものの話題でなく、開発に関する話題(いかにして開発が進められるのか)であることにご留意の上、お読みいただきたく思います。

 いきなりですが、▼田浦で4つドア・10両編成のドアがすべて扱える(トンネルにかからず、開けられる)かどうか([2966])と、▼山手線の田端−池袋間で快速運転ができるかどうか(別途まとめます)、一見、かなり離れたことのように思われることが、実は近いところにあるのかもしれない、という話です。

 このフォーラムで、車両に関する話題をどういう距離感で取り上げていけばよいのか、手探りな面もあるのですが、フォーラムのトップページに記しましたように「車両とサービスの協調設計(co-design)」という観点で取り上げていくのがいいかなぁ、と感じています(別途まとめます)。


●「901系」「E993系」「E331系」をふりかえる


・JR東日本「E217系」
 http://www.jreast.co.jp/train/local/e217.html

・同「209系」
 http://www.jreast.co.jp/train/local/209.html

・ウィキペディア「901系」
 http://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=JR%E6%9D%B1%E6%97%A5%E6%9C%AC209%E7%B3%BB%E9%9B%BB%E8%BB%8A&redirect=no#.E8.A9.A6.E4.BD.9C.E8.BB.8A

 1992年3月に「901系」の実車が登場し、1993年4月に量産型の「209系」が京浜東北線に投入されています。続いて、車体を拡幅し、運転台を高くした(衝撃吸収構造=クラッシャブルにした)E217系の量産先行車が1994年8月に登場(営業運転の開始は12月)しています。

※この間には成田線の踏切事故(1992年9月[2966])もありましたが、とはいえ、衝撃吸収構造が急きょ、盛り込まれたというわけではなく、もともと開発が進められていたのでしょう。事故が起きる前から開発に取り組んでいながら(危険性も、対応策もわかっていながら)、採用は事故の後になるという「(技術者にとっての)くやしさ」のようなものは、いつの時代にも少なからずあるもので、技術開発に「終わり」がないのと同じように、この「くやしさ」が完全になくなることもまた、ありえません。

 つまるところ、現行の車両の基本的な設計は1992〜1994年ごろに固まったもので、それ以降は、設計というよりはスペックといいましょうか、その時々の技術革新の成果を順に採り入れながら、車両の開発が進められてきました。

 車両に関しては「30年一日」(いちじつ)とでも呼びたくなるような、長いスパンがある(一例として、「冷房化」に30年かかったといわれます=定義にもよりますが)ようです。1992年から30年といえば2022年で、もし、大幅な再設計(リデザイン:redesign)がなされるとしたら、「2022年ごろに試作車両が登場するスケジュールで車両が投入される線区」からスタート、ということになるのでしょう。

※山手線より後ですね。山手線と同じE235系でお茶を濁される線区(最近でいえば総武緩行線の209系500代のようなソレ)が1つか2つあったのち、本格的に再設計された新形式が華々しく投入される線区(同、中央快速線のE233系のような)が出てくるということになろうかと思われます。(あくまで推測です。)アクセスログに記録される検索語を見ますと、みなさま、こぞって地元の線区に「E235系」が導入されるのを期待されていらっしゃるようですが、ここでE235系が導入されてしまうと、総武緩行線並みに「残念な線区」になってしまいます(感想は個人です)。

 901系の開発がいつ着手されたのか定かではありませんが、「会社発足直後から」とする説明が散見されます。JRの発足(国鉄の民営化)は1987年4月ですので、901系の開発期間は約5年とみられます。

※もっとも、要素技術としては国鉄時代から着手されていたものもあるでしょう。(これは要素技術とは呼ばれないでしょうが、製品の開発が連続的である一例として)埼京線の205系では客用ドアのガラスが縦に拡大されていますし、相模線の205系では、901系と同種のライトや列番表示器が先行して採用されています。素人が簡単に見ることのできる部分だけでも、これだけ脈々とした積み重ねがあり、見えない部分でも、いろいろと積み重ねがある(901系が、いきなりポンと出てきたわけでは決してない)と想像できます。

 仮に、2022年に試作車両が営業運転に供されると見込めば、その新形式の車両の開発は、2017年には始まることになります。山手線に投入されるE235系は、その前段とでもいいましょうか、相模線の205系のような、これまでの30年における集大成のような車両でもありつつ、次世代の車両にも搭載される要素技術の検証も兼ねたものになるわけです。

・ホームドア設置駅での視認性や美観を考慮した新しいエクステリアデザインの採用
・フルデジタル通信の時代にふさわしい列車内通信システムの高速化、セキュア化
・営業列車による設備監視のための線路設備モニタリング装置の運用態勢の構築

 ほかに、これまで試験車両で試験されながら、その後、採用に至っていない要素の「復活」(「課題を解決して実用化」「1○年越しの『悲願』かなう」「技術者の『執念』実る」など)があるのかどうかも、注目されます。

・E993系(ACトレイン、2002年1月)で試験された外吊りドア、バー型の標識灯
・E331系(2006年3月)で試験された「連接台車」、DDM(ダイレクトドライブモーター)(ここまでE993系の成果を反映)、および13.4m車(「幅広車両」よりも幅広となる幅2,989mm)による14両編成(全長では20m車10両と同じ)、可変座席

※逆に、採用された要素もたくさんあります。できるところから採用しているという面もありましょう。「まだ」採用されていないからといって、「『失敗』だったので今後も採用されることはゼッタイない」などと決めつけることはできません。そもそも、そんな「失敗」にあたるようなものは、いくら試験車両であっても搭載すらされないはずです。試験車両という実物を「起こしてみた」というのは、アテズッポウや(技術者や研究者の)興味本位(一度、試してみたかった)であってはならず、時期や環境さえ整えば実地に採用可能であるという見込みがあってのことでしょう。

※E993系およびE331系での一連の試験は、ちょうど「30年」の中間地点でのフォローアップ(次の15年に取り組む課題の洗い出し)だったのか、と、いまになってみれば思います。そういう話、誰も、きちんとはしてくれないので(いうまでもなくわかっていると思われているのでしょうけれども、わかりませんですとも)、なかなかわかりません。

※技術者としては、通勤形も含めて全車あたりまえのように揺れを低減する機構を組み込んで、超高層ビルやタワーでのエレベーターのような「乗り心地競争」を繰り広げたいと思われるかもしれませんが、経営的に「待った」がかかって、結局、ほどよく揺れる「通勤電車」が温存されていくんですね、わかります。ただ、これも「車内で快適に飲食できる(テーブルに置いた飲み物がこぼれない)」といった付加価値が普通列車でも望まれるようになれば、容易に変わっていくとみられる部分でもあるといえます。お客さまが何をどこまで望むか次第でありつつ、お客さまとしては、いま、目の前にないものは容易には想像できず、望むことすらできないという矛盾があるわけです。通勤電車に乗ったら、テプラの貼られたコーヒーメーカーが置かれている、通勤電車で移動しながら朝食を済ませるのが普通になる、という未来も、ゼッタイにありえないとまではいえません。

・ツイッター(2013年7月10日PST、2015年5月25日PST)
 https://twitter.com/inuro/status/355121832564752384
 https://twitter.com/inuro/status/603091829681221632

 > 日本人にRとLの判別を、しかも左R右Lで行わせるとか難易度高い。

 > 自分で書いた英語が英語としてなんか変だなー、と感じることはできるけどかといって適切な文を書けるわけでもないこのモニョり感。

※いろいろと、同感でございます。


●線路設備モニタリング装置、2018年度までに運用態勢を構築

 E235系に先立って、京浜東北線で「線路設備モニタリング装置」の試験が行われました。この成果がE235系に反映されています。

・このサイト「【線路設備モニタリング装置】 京浜東北・根岸線で試験、2014年度末まで」(2013年5月8日、2014年9月16日掲載)
 http://atos.neorail.jp/atos3/news/news_130508.html

 > 営業列車による高頻度なモニタリングが実現すれば、これまでになく高い時間分解能で検測データが蓄積されることになる。気象や実績ダイヤ、貨物列車の積載量などと照合することで、劣化原因となる事象個別の影響を考慮した詳細な劣化予測ができる。急速な劣化の際も、直前状態の正確な把握や、閾値を超える引き金となった事象の特定が可能になる。

 > 現状では、このような徹底的な分析には膨大な人手やコストがかかるため、事故や重大インシデントが実際に起きるまで行われない。自動化および低コスト化により、今後、このような分析が日常的に行えるようになれば、事故の予防に大きく貢献するものと期待される。

 だいぶ気の早いことを書いてしまったかなと、後からヒヤヒヤしていたのですが、実際に、かなり着々と進んでいるという印象がありますので、ホッとしています。

・日本経済新聞「電車の運休、事前に防止 JR東、走行中に線路点検 ビッグデータを分析」(2015年5月29日)
 http://www.nikkei.com/article/DGKKZO87421620Z20C15A5TI1000/

 > 営業運行している車両に高精細のセンサーやカメラを載せ、運転しながら膨大な情報を集めて既存データや担当者による目視と擦り合わせる。

 > 車両に搭載したレーザーを照射してレールのゆがみや削れ具合をチェックし、データを集める。高精細カメラではレールや枕木を固定するボルトの落下や緩みを検出する。集めたデータと現場担当者の目視による検査の結果との誤差などを分析し、どんな数値が出たら修繕や補修が必要かを精査する。

 > 4月に中央線でデータ収集を始め、5月に試験走行を始めた山手線の新型車両にも搭載した。今秋までに京浜東北線で始め、2016年度以降は東北本線など地方路線での実験も検討する。

 > これまでレールや架線などの状況は現場担当者が目視で調べ、3カ月に1回のペースで検査用の専用車両を走らせていた。営業車両を活用できれば、運行していない夜間を修繕工事などに振り向けやすくなる。鉄橋の上やトンネル内など担当者が入りにくいエリアも把握しやすくなる。18年度までに本格的に運用できる体制をつくる。

 > JR東日本では13年度、車両や設備の故障などによる列車の運休・遅延が1385件発生した。(略)日々のデータを収集できれば、事故を未然に防げた可能性があったという。

 私が当初、素朴に期待したほどには進まない(気象など、ほかのデータとの照合でなく、あくまで従来の検査担当者の判断との照合に留まる)点が残念ですが、やがてはそういう方向へ進化していくものと期待します。車両や線路に関しては文句なしに国内トップレベルでエレガントに「科学」されています(※)。最先端(the cutting edge)ですね、と称賛されます。

※…というところから、(私の)期待が高すぎるのかもしれませんが、「ソフト面」の研究開発のレベルも高めていってほしいものです。

※「開発」における最先端の「その先」をゆく話としては、どんな検査データをどんな名前で蓄積すればいいのか(極端には砂漠でも極地でも通用するデータレンジの設定など含む)、といった取り決めのようなものを国際標準にしていくところまでありましょうけれども、ちょっと専門外すぎて、どういう展開になっていくのか読み切れません。余力がありましたら勉強してみたく思います。すみません。

[3058]
 > > NHKでは「ことし秋ごろから山手線で新型車両の運行を1編成で始め、3年後から順次、現在の車両と置き換えていく」と、量産車の投入が2018年から行われると報じています。

 量産先行車が登場してから量産までにたいへん長い期間があるのは、山手線のために新製した編成とはいえ、この編成で近郊、地方の線区も含めて(ただし直流区間に限る※)くまなく試験しようということなんですね、わかります。また、日経の記事にあるように、運用態勢を構築してからでないと量産車を入れることはできないということでもあります。

※裏返せば、交流区間では(設備上の違いもあり)営業列車によるモニタリングが実現するのは遅れる、ということです。このタイムラグ、実情がわかっていれば「やむをえない」と納得できましょうが、万一にも、直流区間ではモニタリングがあたりまえになった後に、なお実現しない交流区間で、大きな事故なりトラブルなりが起きたとすると、「なぜ後回しにしたのか」「判断に『甘さ』はなかったか」などと、ホウボウからガクガクされるわけです。特に常磐線では、現行のE531系が、かなり末永く使われ続け、モニタリング装置を標準で搭載する新形式の車両に置き換えられるのは、東京圏でも最後のほうになりかねません。車両はそのままでモニタリング装置を搭載していけるような開発が望まれます。あるいは、同じ交流電化の新幹線と歩調を合わせて進められるのかもしれませんね。

 ATOSにおける「出発時機表示器」に関してもまとめたこと([3001],[3054])ですが、車両なり機器なり、それだけをマニアックに見ていてはわからない、バックエンドでの運用態勢の構築に着目していきますと、「24か月」なり「3年後」なりといった「なぜ時間がかかるのか」が、わかってきます。


●運転台が高いE235系

 E235系の、この編成(量産先行車)で、運転台が高くなっているのが気になる方も多いことでしょう。山手線には不要な、一種の「オーバースペック」なのではないか、と一見、見えますが、近郊の線区を含めた試験のためという点では、運転台が高いことは必須です。とはいえ、果たして、山手線用として量産される時にも運転台が高い仕様となるのかどうかは不明で、注目されます。

・A. 山手線用の量産型では運転台が低くなる(量産先行車は近郊線区に転用される)
・B. E235系では、すべて運転台が高くなる

 E233系では、B.になりました。特に、京浜東北線用の編成がもれなく運転台が高くなったことは特筆されます。そのまま久里浜まで直通できるわけです。さらに、田浦ですべてのドアが扱えるんですね、わかります。

※このあたり、大船−久里浜間でのATOSの導入時(2009年11月)には手が付けられなかった配線の整理(鎌倉でのホーム拡幅や2面3線化、逗子での折り返し能力向上など)と一体的な「鉛筆」にもなりうる課題のように見受けられます。本当でしょうか。2014年3月から、成田エクスプレスの横須賀までの延長運転が始まる一方、2015年3月にはライナーが廃止されていますが、そうした動向とともに注目されるかと思います。


この記事のURL https://neorail.jp/forum/?3062


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