フォーラム - neorail.jp R16
発行:2014/12/29
更新:2015/2/16

[2993]

【鉄道と情報】

ユビde高度先進アプリ(1) 「中の人」がいるシステム


(約3000字)

 [2990]に続き、システムと人、そしてデータについて、まとめてみようと思います。なお、見出しに深い意味はあるようなないような、といったところで、以下の命名法に「インスパイヤ(笑)」もしくは「笑撃」を受けたといいましょうか。

・東芝レビュー「インターネットから評判情報を抽出する口コミ分析技術 ユビdeコミミハサンダーTM」(2008)
 http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2008/10/63_10pdf/f01.pdf

※名称も名称ですが、それにも増して「TM」、すなわちこれが商標であるところが、たいへん私的(わたしてき)にツボであります。

[2990]
 > このような無数の「情報」を、その場にいる駅員だけでなく指令員や乗務員、さらには各種のシステムまでもが透過的に共有できるような情報環境を構築できれば、その環境を活用することで、(システムが事前に想定していない:観測に漏れのある)未知の情報をも処理しうる、たいへんインテリジェントなシステム(人を含めた)が実現できるでしょう。

 この手の話は古くからありますが、少し前には「ユビキタス」(Ubiquitous Computing or Networking)、いまは再び「Internet of Things:IoT」(モノのインターネット=モノがつながるインターネット)という言葉で脚光を浴びています。

・Wikipedia「Ubiquitous computing」
 http://en.wikipedia.org/wiki/Ubiquitous_computing

・Wikipedia「ユビキタスコンピューティング」
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%93%E3%82%AD%E3%82%BF%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%82%B0

 > 2002年に坂村が「YRPユビキタス・ネットワーキング研究所」を開設する際「本当は“どこでもコンピュータ研究所”にしたかったのだが、そんなドラえもん(笑)みたいな名前では予算は出せないといわれた」という。

 日本語版は「読み物」としては楽しめますが、事典としては英語版を読まないとほとんど役に立ちません。他方で、坂村氏の(日本国内での、かつ学術的でない)功績としては「どこでもコンピュータ」というネーミングにも大きな意義があると思いますが、このことをきちんと英語で説明するのは、なかなか難しそうですね。

 とはいえ、「ユビdeコミミハサンダーTM」にしてもそうですが、ユビキタスを語るにはユーモアあふれる人であることが、なにがしかの資格のようなものになっているような気がしてなりません。裏返せば、既存の枠組みや権威にこだわって難しい顔をしている、そして起工式の日取りや「エンギ」ばかりを気にしているようでは、イノベーションは起こせないだろうということでしょう、たぶん。

・マイクロソフト「あらゆるモノがインターネットに接続される時、何を接続しますか?」
 http://www.microsoft.com/windowsembedded/ja-jp/internet-of-things.aspx

 > IoTによって実現される、世界で最初に作られた地下鉄の変換に関するビデオをご覧ください。

・YouTubeで見る「Bringing the Internet of Things to the London Underground」(2014年10月22日)
 https://www.youtube.com/watch?v=1CSbJ0xZkmE




 > See how telent is tapping into the power of the Internet of Things (IoT) and transforming its business with new services, built on Microsoft technologies, for the world's first underground railway.

 分野によっては、何をいまさらおっしゃいますか、と苦笑される向きもありましょうが、実地に展開できようかというところまでネットワークやセンサーのコストが下がってきたのは頼もしいことです。

・JR西日本「ホームの安全性向上にむけて カメラの画像解析技術を使った異常検知システムを導入します」(2014年12月24日)
 http://www.westjr.co.jp/press/article/2014/12/page_6611.html

 > カメラの画像解析技術を用い、ホームにおけるお客様の歩行の乱れや長時間の座り込み、線路内への立ち入りなど通常と異なる動きを自動的に検知し、当社係員に知らせることによりお客様を保護

 > ホームの屋根に設置する専用のカメラにより、ホームから線路内への転落を自動的に検知し、乗務員に知らせて列車の停止手配を取るとともに、駅係員が現地に走行してお客様への対応を行います。また、転落検知カメラを使ってホーム端を歩いているお客様を検知し、内蔵しているスピーカーで注意喚起放送も行います。

 個別の、特定の状況下にある「お客様」に対する自動アナウンスの導入ともいえ、これは各社通じて初となるものではないでしょうか。具体的には、カメラの映像から自動で「黄色い線の外側に数秒間いるお客様」を判定し、自動的に「黄色い点字ブロックまでお下がりください」という注意喚起の音声を、カメラに内蔵したスピーカーから再生するということです。これを「IoT」と呼ぶのは無理がありますが(※)、IoTの一面には、こういうシステムも入ってくるんだと、Microsoftのビデオは主張しているのでしょう。

※乗客の持ち物が自ら位置情報を発信し、それに基づいて云々、というくらいの話でないとIoTとは呼びがたいと感じる人のほうが多いのではないでしょうか。

 また、自動判定や自動での注意喚起が難しいケースに対しては、駅とは別に設けられるセンターの係員が映像を見て判断し、必要があれば駅に連絡し、駅員が「走行」(走って駆け付ける、の意とみられます)するとのことです。

・科学技術振興機構「人間を含むシステムの情報構造に着目した情報科学技術研究の推進」(2010年)
 http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2010/SP/CRDS-FY2010-SP-11.pdf

 > これまで科学的に扱うことが困難であった人間の行動に関わる様々な現象などが、大量のデータの分析に裏打ちされ、科学として扱うことが可能となった。人間を含むシステムの情報構造に着目した情報科学技術研究を、今まさに始める時期がきたといえる。

 「お客様」の行動もそうでしょうが、システムの側にはりついている係員(いわゆる「中の人」)の行動も、データとして蓄積していけそうです。つまり、どんな映像に対してどんな対応をしたかを記録していけば、やがてはある程度のところまで、自動化していけるだろうということです。


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