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上野東京ライン(東北縦貫線)について10月30日、開業当初の運行の概要が公表されました。ここでは、普通列車について、車両の運用および駅での旅客流動の面から、開業当初に実現できることとできないこと、という観点からまとめます。(着目点が異なる特急列車については、別途まとめます。)
・JR東日本「「上野東京ライン」開業により、南北の大動脈が動き出します
〜開業時期、直通運転の概要について〜」(2014/10/30)
http://www.jreast.co.jp/press/2014/20141022.pdf
概要のみの公表で、詳細なダイヤは12月を待て(※)、という状況ですが、さらに要約と補足がないと、なかなか理解が難しい話だと思います。(まず私自身が理解しにくいので、以下、とりあえず自分のためにまとめてみます。)
※[2970]から、多少なりとも何らかの動きはあると予想される横須賀線、総武線(快速)についても12月を待て、です。わずか2ヶ月弱とはいえ、たいへん待ち遠しいですね。
・1. 朝ラッシュ時の山手線(外回り)・京浜東北線(南行)、上野→東京(この方向のみ)の混雑率を低下(できるだけ大幅に低下)させることが至上命題である(東北縦貫線の効果測定の指標となる)
・2. 宇都宮線、高崎線、常磐線の3方面と(少なくとも開業後の初年度は)均等に相互乗り入れする必要がある
・3. 東海道線側のダイヤをいじるのは翌年以降か
1.については、プレスリリースの中で以下のように記されています。
> ・朝通勤ピーク時間帯(東京駅概ね8:00〜9:00)の直通本数は宇都宮線5本、高崎線5本、常磐線5本とします。
> (※各線区から東京・品川方面への南行列車本数)
> (※常磐線は朝通勤ピーク時間帯では、取手以南運転の快速上り電車のみの直通運転となります)
朝ラッシュの前後の時間帯には、ほとんど直通しない可能性があります。これには、それぞれの方面での電車区からの出区が早朝から朝7時台までかかるということ(※1)、東海道線の列車の本数を確保するためには、朝ラッシュの最中に品川折り返しを多数設定することは難しいとみられること(※2)などの理由が考えられます。
※1 例えば、宇都宮線・高崎線では、尾久から上野へ回送し、上野始発で下り列車として1日の営業を開始する編成がそれなりの数あるはずで(ほとんどの列車を上り列車として開始できれば需要にあっていて無駄が少ないのでしょうが、そのためには郊外の電車区をもっと拡張しなければなりません)、これを効率的にさばく、すなわち、尾久から出てきて上野で折り返して下り本線へ送り出すためには、上野での進路制御上、これ以外の経路で運転する列車が混在していないほうが、分岐器を転換する回数を減らせる、といった事情があるはずです。
※2 ラッシュ時に品川始発(折り返し)で北行きが多数走るには、その分、品川以南からの列車を減らす必要が出てしまいます。品川駅での乗り換えの流動の容量からも、ラッシュ時(の、特にピーク帯)には品川を通り抜ける列車しか設定できないはずです。同じことは東京にもいえますが、これまで東京で全員が降りていた東海道線の列車がそのまま北行きとして直通した場合に、どれだけ降りないのか(乗り続けるのか)、需要が読みきれないのではないでしょうか。また、品川→日暮里といった区間での「速い快速」とみられてしまうと、山手線などに乗ってもらいたい短距離の利用客までもが(わずかばかりの通過駅によるわずかな速達性を目当てに)上野東京ラインに乗ってしまい、日暮里駅での流動がさばききれなくなる恐れが出てしまいかねません(これまでの逆:常磐線から山手線へ、池袋・新宿へ向かう流動の逆ですね)。
2.については、沿線の自治体からの要望などには一律、応えません(鉄道事業者が主体的に決めることです)、というメッセージでもあると同時に、事業者にとっての現実的な問題としても、東北縦貫線による旅客流動の変化が読みきれない面が大きいので、初年度はかなり安全側(旅客流動の容量にマージンを大きくとった)に寄った、様子見的なダイヤになるんだと思います。
> ・朝通勤ピーク時間帯(東京駅概ね8:00〜9:00)の直通本数は宇都宮線5本、高崎線5本、常磐線5本とします。
常磐線から乗り入れた電車(電車、ですよね:グリーン車なしです)は、概ね8:30を過ぎてからの品川折り返し(あるいは品川の留置線へ入区)とできれば、なんとか設定できるところでしょう。(常磐線からは、品川着が8:30より前になる時間帯には、乗り入れないのではないかと思われます:常磐線からのラッシュ時の品川直通を享受できるのは、始業時間が遅い方などに限られるでしょう。)
3.については、「上野東京ライン」、線路としての「東北縦貫線」が、名実ともに宇都宮線(東北線)の東京乗り入れであるため、ダイヤについても、いじるのは乗り入れる側が中心で、乗り入れを受ける側となる東海道線側では、このタイミングでは大きなダイヤの変更を行なわないのではないかと思います。
> ・宇都宮線及び高崎線は東海道線と相互直通運転を実施します。
湘南新宿ラインのような遠距離での直通が頭に浮かびますが、車両基地の都合で(山手貨物線〜東北貨物線のルート上には留置線がなく、折り返しできるホームは埼京線・りんかい線や特急列車で使われているため、直通するしかない)、上野東京ラインでは上野や品川での折り返し(電車区や留置線への出入りを含む)がそれなりに多数、設定されるとみられます。いわば、新宿経由と東京経由とでは「役割」が違うということですね。
列車無線は上野で切り替えとなっており、指令としては上野を境界としている模様です。東海道線の列車のほぼすべてが上野まで営業運転し、そこで折り返すなり、回送で尾久に入るなり、といったことは容易に想像がつくところです。長期的には、東京での折り返しを極力(ほぼすべて)なくさないと、この区間での増発ができません。
※別途まとめますが、この点からも、東海道線の特急列車やライナーも大幅な再編が迫られるといえます。
中央線(快速)でいうところの中野や新宿にあたり、また新宿よりも難しいのは、編成が軒並み15両であり、南北の両方向に大きな流動があるという点になるかと思います。南行き、北行きとも、それぞれに1面2線ずつを使っての交互発着を行なって、列車の間隔を詰めていくのだろうとみられます。ホームの中間にも信号機が増設されており、おお、これは本気だな、と思わせられます。明日から、いえ、2年目以降から本気を出す(かもしれない)という、みなさま、潜在的な何かに期待をかけておくことにいたしましょう。
また、今夏から日中に「営業運転並み」のダイヤでの試運転が行なわれてはいますが、10番線を使っての直通の運転や、7・8番線から東北方面へ発車する試運転はあまり行なわれていないように見受けられます。深夜などにやっているのかはわかりませんし、残り3ヶ月となる12月からやるのかもしれませんが、もしやらないまま3月の開業を迎えるとすると、これは事実上、開業後の営業運転を通して習熟をはかっていくという意味なのではないでしょうか。最初の1年間は、乗務員にとっても駅員にとっても指令にとっても、また利用客にとっても、習熟のための期間となるといえます。
※利用客もスムーズに乗り降り、乗り換えできませんと、電車が遅れます。
車庫の都合を先に考えると見えてくる話(駐車場もないのにクルマを買う人はいませんですから)として、早朝、尾久から出て上野から営業運転を開始し、そのまま東海道線へ直通、大船などで折り返して近距離(といいきるには微妙ですが、大船→東京間は近いほうに入るでしょう)の需要に対応する、といったことが可能とみられ、東海道線側では、ダイヤはいじらず、同じスジを東海道線の車両での運用から宇都宮線・高崎線の車両での運用に振り替える形で、「相互直通運転」を実現していくのだろうと思います。
※その逆、大船から出てそのまま宇都宮線・高崎線に直通し、比較的近いところ(栗橋や鴻巣など、[2910])で折り返して、ということも考えられますが、初年度にどこまで実現するでしょうか。ある程度は長期的な取り組みになるのだろうと思います。また、このような折り返し運転を実現しつつ、栗橋や鴻巣より北の区間での列車を減便しないということは、すなわち「増発」になりますので、「増発」といっていない限りはやらない、ということでもあります。上述の繰り返しになりますが、旅客流動が読みきれず怖いという状況下では、増発などもっと怖くてできない、ということにほかなりません。
以上をふまえまして、いま改めて、プレスリリースで明示的に書かれていることを裏返した上に裏を読んでまとめてみます。
・上野→東京間の混雑率を、初年度だけ大幅に低下させたい=上野東京ラインの設定による「利用増」が、初年度には起こらないほうがよい
利用客が上野東京ラインに過度に流入しそうな、いわば「便利すぎる列車」の設定を避けるなどの配慮が必要とみられます。効果測定のためというお役所的な発想ではありますが、上述のように旅客流動の変化が読みきれないという問題への対策としても、安全上(※3)、重要なことで、極端な新規流入が起きないようにして、現にこの区間を利用している客だけが上野東京ラインに移るようにすることで、予想外の流動の増加を避けてホーム上やコンコースの混雑を許容範囲内に収めるという対策を兼ねているといえるかと思います。
※3 奥ゆかしい話(明石歩道橋事故[2911])も参照。雑踏(混雑)は、それ自体が「歩く凶器」です。だから渋谷で「DJポリス」が必要になるのです。雑踏を構成する側(公衆)は遊んでいても、警備するほうは遊んでいるんではないんですよ。
※実質的には、4月の定期券の新規購入時や引越しシーズンに、上野東京ラインを目当てにされないようにする、というところまでが必須の対策といえます。ある程度、流動が見えてきたら、6月でも9月でも、ダイヤを修正していけるのではないでしょうか。そのための、一見、無駄にみえるような回送列車(営業できるのにしない列車)が、当初は設定されてもおかしくありません。
・常磐線の快速電車(E231系:グリーン車なし)は、朝ラッシュ時に品川乗り入れ(「発着」とは書いていない)、夕ラッシュ時に品川始発(「発着」と書いてあるが、営業運転での「着」とは限らない)
品川の留置線で日中ずっと休み、ということもないとは思いますが、上述のように日暮里の流動の制約上、朝ラッシュの直後や夕ラッシュの直前に、どかどかと品川発着で営業運転するとも考えにくいです。どうするんでしょう?
3年後(2018年)には相鉄・JR直通線が、ということも考えられなくはないですね。鶴見に建設される(かもしれない)といわれる貨物線ホームが15両対応で実現すれば、常磐線(快速)の鶴見延伸、とでもいえるのではないでしょうか。相鉄・JR直通線のJR側としてはエメラルドグリーンで揃うかと思います。
・常磐線の普通列車(E531系:グリーン車あり)は、データイムのみ、一部の列車のみ、品川まで乗り入れ
交直流対応のE531系が貴重な存在であるためです。とはいえさすがに1編成だけ増備されました。これ以上の増備はないでしょうから、仮に「常磐線と品川以南との直通を増やしてほしい」という声が高まったとしても、常磐線のE231系にグリーン車を組み込むか、上述のように、グリーン車なしで相鉄・JR直通線との直通(10両編成)や、鶴見までの乗り入れ(15両編成?)を実現するのがやっとではないかと思われます。
あるいは、新宿で本数が減る埼京線の新宿−大崎間を補いつつ、山手線しかない大崎−品川間の需要に対応するため、相鉄・JR直通線の整備(3年遅れ)を待たずに常磐線からの電車を暫定的に新宿まで直通させる形で手当てする(多少の時短効果と、座れれば座ったまま新宿へ行けることをアピールし、時間はかかるものの、日暮里での池袋方面への乗り換えをいくらか減らすことも狙えます)、ということも考えられなくはありません。新宿−大崎間は、これまで2015年度に相鉄・JR直通線が開業する前提で輸送力の計画が立てられてきたはずで、ここへきて急に3年遅れとなり、需要が増えるのに列車が増えないとなれば、バランスが崩れてしまいます。
※奥ゆかしい話は、難しいですね。
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