・大田区「鉄道騒音・振動調査報告書」を読み解く ・騒音・振動の観点から「新型車両の重量」を読み解く ・(大田区)測定場所の選びかた ・表2 主な車両の重量(ウィキペディアより作成) ・表3 「205系」世代の仕様の差異による重量の比較(ウィキペディアより作成)
(約6000字)
ここでは、騒音を総合的に評価する「等価騒音レベル」に関して基礎的な知識を導入し、前編([3195])では杉並区、そして後編([3194])では大田区の報告書を正確に読み解くことを目指します。
前編([3195])からの続きです。
●大田区「鉄道騒音・振動調査報告書」を読み解く
大田区の報告書を読んでみましょう。
・大田区「平成23年度鉄道騒音・振動調査報告書」(2011年)
https://www.city.ota.tokyo.jp/seikatsu/sumaimachinami/kankyou/chousa/kankyouchousa_houkokusho/kankyouchousa_houkokusyo_h23.files/H23_tetudou_souonn_sinndou.pdf
> 従来の鉄道騒音測定は、「新幹線鉄道騒音に係わる環境基準について」(昭和50年7月29日 環境庁告示第46号)、「在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針について」(平成7年12月20日 環大−174号)、(以下「従来法」と記載する。)に基づいて行なわれてきた。しかし、「在来鉄道騒音測定マニュアル」(平成22年5月 環境省 水・大気環境局大気生活環境室)、(以下「改正法」と記載する。)が、在来鉄道の騒音測定を行なう標準的な方法として、環境省より示された。
> 京浜東北線も前回調査時は、全車両209系であったが、今回の調査では、全車両ステンレス車体のE233系に置き換わっていた。新型車両に置き換わり、車体の軽量化が騒音レベルの低下につながったものと考えられる。
> 京浜東北線では、振動レベルは全体として低下しているとは言えない。この原因としては振動レベルについては、車両の重量だけでなく鉄道軌道の地盤などの影響が考えられる。このため、新型車両への置き換えだけでは、振動レベルの低下が見られない地点もあった。
え゛ー! 京浜東北線に限っては車体の重量は増加していませんか? 重量が増加したので、あるいは混雑率が日中(測定時)にもあまり下がらないような流動の変化などが重なって(重量には乗客も含みます)、振動が大きくなったのではないかと考えられませんか?
> 騒音レベルが低下した要因として、平成17年度以降の新型車両の導入が考えられる。以前、普通列車の主流だった113系(重量31〜41トン)がE217系、E231系、E233系(重量22〜39トン)のステンレス車体に置き換わり、列車の軽量化が騒音レベルの低下につながったものと考えられる。
> 京浜東北線でも全体的に騒音レベルが下がっている。京浜東北線も車体形式が209系から全車両E233系に置き換わり列車の軽量化したことが、騒音レベルの低下につながったものと考えられる。
東海道線については車両の重量を数値を挙げて示しているのに、なぜ京浜東北線については数値を挙げないまま「軽量化」と断じることができるのでしょうか。こんなことでいいんでしょうか。
ウィキペディアや個人のページ、趣味誌は除いて、また、支社への直接お問い合わせるるんるん…もせずに調べたいといって、探索を試みます。
・JR東日本「JR東日本グループ社会環境報告書2004」(2004年)
http://www.jreast.co.jp/eco/pdf/pdf_2004/06_07.pdf
> 環境配慮型車両E231系はこうして生まれた
> 車両重量は、1両約40トンの103系に対して、E231系は約25トンと大幅に軽量化した。
> こうした軽量化への取り組みは、E231系の前身である209系から始まった。「車両重量を従来の半分に」
209系の重量は明示的には示されていませんでした。残念! 次善の策として、趣味誌のサイト上にそういう事典的なコンテンツがあるかといえば、いきなり『台車近影』になってしまいます。(重量の記載は見つけられませんでした。細かい記事の中にはあるのかもしれませんが、探しきれません、の意。)
なるほど、大田区としてウィキペディアを引きましたとはいえないとしますと、では、支社にるるんるん(お電話、の意)してほしかったなぁ、と思われました。
●騒音・振動の観点から「新型車両の重量」を読み解く
杉並区でも、簡単に説明できない騒音の値の変動が2007年にみられました。
2007年に中央線で何が起きたのでしょうか。なんと、快速線の201系がE233系に置き換えられたのが、この年だったのです! …ということで、車両についてしっかり見直してみようと思います。
・ウィキペディア「E233系」
https://ja.wikipedia.org/wiki/JR%E6%9D%B1%E6%97%A5%E6%9C%ACE233%E7%B3%BB%E9%9B%BB%E8%BB%8A
> 2006年(平成18年)12月26日に営業運転を開始した。
> 文献6 鉄道図書刊行会「鉄道ピクトリアル」2007年3月号「中央快速線E233系営業運転開始」80頁記事。
これではちょっと、公的な文書で参考に挙げたり引用したりするのは「躊ちょ」されましょう。
・JR東日本「在来線 E233系」
https://www.jreast.co.jp/train/local/e233.html
> 2006年にデビューした中央快速線
ちょっと大ざっぱすぎます。
・JR東日本 八王子支社「中央線の歴史」
https://www.jreast.co.jp/hachioji/chuousen/history_chu/h_10.html
> 2006年
> 11月17日 新型車両E233系報道関係者試乗会を三鷹〜八王子間で実施
> 12月2日 中央線新型通勤車両E233系試乗会を八王子〜相模湖間で実施
> 12月26日 中央線新型通勤車用E233系営業運転開始
おおー、これなら問題なく引けそうです。しかし、八王子支社のページにこれが載っていることをあらかじめ知っていないと、探そうとも思われないはずです。また、ホームページのない支社が管轄する路線については(公式の)情報が(Web上に)ないということになります。
大田区の報告書にみられる「京浜東北線の車両の重量」について、具体的な数字を知りたいと、いえ、県立図書館に行けばそれなりに調べてもらえそうですが、区役所で騒音を測る人にあって、県立図書館に調べものに行くという業務が業務の中に位置づけられていないのでしょう…たぶん。
ここではウィキペディアも引いておくことにします。
公的な文書で、ウィキペディアだと明示して載せてよいか、まだ不安があるかもしれません。ウィキペディアに載っている電車の車体重量の出典は何でしょうか。
・新車登場時の趣味誌の記事、最近では鉄道会社のプレスリリースなどにも
・現行の車両であれば、車体妻面(連結面)の「自重」の表記
ということから、車体重量という情報はきちんと公になっている情報といえます。次に心配するのは、誤記がないかということですが、趣味誌も結構(かなり)「正誤表が厚くなる」ソレで(訂正が多い、の意)、冊子体だからといってうのみにはできません。ウィキペディアは、国鉄やJRに関するものでは、熱心なかたが「赤い目」で間違い探しをされていそうですから、それなりに訂正が『一巡』しているのではないかなぁ、といって、淡い期待を抱いてみます。(あくまで淡いです。)
以下、103系については、103系のページではなくE233系のページでの消費電力の比較の表からの引用でございます。
■表2 主な車両の重量(ウィキペディアより作成)
形式 | クハ | モハ | サハ | 6扉車 | 平均 | | | | | | | 103系(6M4T) | | | | | 36.3 | 205系(6M4T) | | | | | 29.5 | 209系(京浜東北線・3次車) | 23.3 | 27.9 | 21.2 | 24.5 | 24.6 | E233系 | 30.8 | 32.7 | 28.7 | - | 31.0 | E231系0番台(中央・総武線) | 25.7 | 28.4 | 22.2 | 23.6 | 25.5 | | | | | | | E233系3000番台・2階建てグリーン車(2両) | | | | | 39.0 | 185系(6M4T) | 36.6 | 44.6 | 34.0 | - | 40.6 | 215系(4M6T) | | | | - | 36.9 |
※単位:トン。形式区分ごとに最も重い車両の重量を示します。「平均」は、編成全体の重量を両数で除した値です。
ここに挙げた形式の中では205系が最も平均的な重量であったとわかります。209系とE231系が極端に軽かったことから、「新型車両=軽い!」という先入観が強まるわけですが、E233系は205系(が仮に「幅広車両!(ただし4扉!)」になったとして、E231系と209系の比から求めた「1.037」を乗じると1両あたり30.6トン)とほぼ同等だとみなせます。
2階建てグリーン車は重くてかなわん、ということかというと、では、215系は…といって、おお、編成全体での重量はだいぶ抑えられている、いえ、そのために出力を増強した上で4M6Tの編成にされているといって、ちょっと立体的に見えてきたような気になってみます。103系で「200%超!」の乗車率となった状態と、215系で全席が埋まった状態とで、ほとんど同じ重量であると概算できましょう。
ちょっと欲ばってみましょうか。
■表3 「205系」世代の仕様の差異による重量の比較(ウィキペディアより作成)
形式 | クハ | モハ | クモハ | サハ | 平均 | | | | | | | 205系(6M4T) | | | | | 29.5 | 211系 | | | 36.3 | 23.2 | | | | | | | | (長野)211系0番台(セミクロスシート)・6両編成 | 26.8 | 34.9 | - | - | 31.9 | (長野)211系1000番台(セミクロスシート)・3両編成 | 27.1 | 35.1 | 36.3 | - | 32.8 | (長野)211系2000番台(ロングシート)・6両編成 | 26.2 | 34.3 | - | - | 31.3 | (長野)211系3000番台(ロングシート)・5両編成 | 26.5 | 34.5 | 35.7 | 23.5 | 32.2 |
仮に、▼205系を寒冷地仕様で幅広車両にしつつドアは3扉に減らした仕様に相当する「(長野)211系2000番台(ロングシート)・6両編成」では、205系に対して「1.061」、▼そこからセミクロスシートにすると「1.028」…などといって遊べます。(あくまで遊びです。)また、211系の暖地向けサハ(2000番台・ロングシート)と寒冷地向けサハ(3000番台・ロングシート)を比べますと「1.013」と出ます。
そして、乗客の重量までは考えませんでした。(恐縮です。)
・「乗客重量が鉄道車両の車体振動に与える影響」日本機械学会(2001年8月)
http://www.jsme.or.jp/monograph/dmc/2001/data/pdf/712.pdf
> 人が乗車した場合とダミーウエイト積載の場合に対する加振により,同じ重量でも人が乗車した場合とダミーウエイト積載の場合とでは車体の振動応答特性が異なること,人やダミーウエイトの積載条件(着席か立位か,いす上積載か床上積載か,など)によっても車体の振動応答特性に変化が見られること,などがわかった.
おおー、やっぱり(素朴に考えても違いがありそうだと思われる通り)違いがあるんですね。オレンジ色の水タンクでちゃっぷんちゃっぷん([3157])も参照。
> 鉄道車両の軽量化に伴い,車体重量に対する乗客重量の割合が増大している.従来,乗客重量の影響は単純に車体重量の増加として扱われてきたが,今後の効果的な軽量車体設計のためには乗客重量のより詳しい取り扱いが求められるようになるものと考えられる.
設計が高精細になったので測定方法も高分解能にならないと十分には役に立たないという話だと見受けました。そして、乗客の平均体重として***kgほどを想定されているんだと…平均値でいいんですねぇ([3134])。
ほかに、なるべく公的な資料をば、というと以下の資料も見つかりましたが、ここから数値だけを取り出して引用するのはちょっと引用とはみなされがたく、個別にお問い合わせなり許諾なり必要でしょう。
・日本エネルギー経済研究所(IEEJ)「LCA的視点からみた鉄鋼製品の社会における省エネルギー貢献に係る調査 各論6.電車(ステンレス鋼板)」(2002年8月)
http://eneken.ieej.or.jp/data/pdf/468.pdf
●(大田区)測定場所の選びかた
測定場所(調査地点)の選びかたに関して、先述の杉並区ではとても『清く正しい!』という印象があったのに対し、大田区では、現場の戸惑いのようなものが率直に示されています。
> 測定地点における暗騒音の状況を把握するため、列車が走行していない間(各正時から10分間)の等価騒音レベルを測定した。
> 改正法による等価騒音レベルの測定では、「最大騒音レベルと暗騒音の差が15dB以上確保できる地点で測定すること。(「在来鉄道騒音測定マニュアル」P.11)」とされている。今回の改正法による測定では、一部で暗騒音との差を十分に確保できない地点があった。
> 具体的には、地点1(大森西1-12地先)では、近くに踏切があるために警報機音、遮断機音が混入し、データの抽出が難しい状況であった。また、地点5A、地点5Bでは、東海道本線と京浜東北線が離れて走行していることや近くに工場等があるために、遠い軌道のデータを十分に確保できない状態であった。
> 今後、在来鉄道騒音は、改正法に基づいた等価騒音レベルで評価することになるので、継続した調査を行う為には、調査地点の検討が必要である。
「各正時から10分間」というのも微妙にビミョーで、そのような測り方をするんだとあらかじめ公言されていれば、その時間帯に列車を少なくする事業者が出てもおかしくないと、あらかじめ疑わなければなりません。ダイヤを勘案の上、適切に「平均値」や「中央値」が得られそうな時間帯に測定するという、たいへんめんどうなソレに、全国どこの自治体でも取り組まなくてはならないのではないかと心配されてきました。本当でしょうか。
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