フォーラム - neorail.jp R16
発行:2017/4/14
更新:2018/3/17

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【報告書から読み解く鉄道の未来】

広報あびこ「成田線輸送改善計画の概要」(1997年7月)をJR西日本「奈良線第2期複線化事業 環境影響評価 方法書」(2014年3月)で読み解く


千葉県「千葉県JR線複線化等促進期成同盟 活動内容」を読み解く
【奈良線】京都府「京都府からの提言」ならびにJR西日本「奈良線第2期複線化事業 環境影響評価 方法書」を読み解く
我孫子市「成田線輸送改善計画の概要」を読み解く
車両の仕様を遠目に眺める(談)
新しい最新式「成田線複線化事業(仮)」を想像してみるには
【訂正】成田空港周辺地域共生財団「成田空港周辺地域の騒音対策」を読み解く(仮)
表531 常磐線・成田線の車両の衝撃吸収構造

(約24000字)

 このフォーラムでは「報告書から読み解く鉄道の未来」と題して、各種の報告書や計画などを通読(=通して読む)してまいりました。

・「京葉線とりんかい線の相互直通運転に関する利用実態他調査結果」を読み解く([3027]
・パーソントリップ調査を読み解く([2939]
・ぐんまちゃんのパーソントリップ調査と統計報告調整法(旧法)([3130]
・「18号答申フォローアップ」を読み解く([3003]
・神奈川県「かながわ交通計画」で「神奈川東部方面線の機能を有する路線」を読み解く([3258],[3259]
・「新たな相模線交通改善プログラム」を読み解く([3140],[3141]
・「市原市交通マスタープラン」を読み解く([3265]
・品川区「大井町駅周辺地区まちづくり構想」ほかを読み解く([3145]
・京都駅・新大阪駅での「外国人によるひとり歩き点検隊」報告書を読み解く([2958]

 個々の計画等について詳しくなって『訳知り顔!』になろうというようなことをすすめるものではございません。個々の計画等が、いかにしてそのような内容になったのかを読み解いていこうというのがモチベーションでございます。

 これまでに読んできたものは、さほど複合的ではなくシンプルなものが中心であったかと思われますが、応用編といいましょうか、いざ、複合的でむずかしいものに挑んでみようと、こういうわけです。


★千葉県「千葉県JR線複線化等促進期成同盟 活動内容」を読み解く


 成田線でございます。

 まず、地元の自治体側でどのような取り組みがされてきているのか、見てみます。地元からJRに毎年出される要望には、住民やその代表である議会の素朴な言葉で語られた(ような印象のある)「素朴な要望(熟度の低い要望)」と、実は国鉄時代から綿密に協議してきたかのような「熟度の高い要望」とが混在しているという理解にございます。

・千葉県「千葉県JR線複線化等促進期成同盟 活動内容」
 https://www.pref.chiba.lg.jp/koukei/tetsudou/doumei-2.html#7

 > 総武本線、成田線松岸方・鹿島線、成田線我孫子方グループ

 (千葉県のほうでは)そのように呼びならわすんですね、わかります。

 > 平成29年3月実施予定のダイヤ改正の内容について、臨時の要望活動を行った。

 https://www.pref.chiba.lg.jp/koukei/tetsudou/documents/rinji.pdf

 > 内房線及び久留里線は沿線住民の日常生活はもとより、まちづくりや観光の基盤として、長年機能してきた重要な路線であることから、下記の項目について要望します。

 > 特別快速の運行取り止めの再検討について
 > 普通列車の減便の再検討について
 > ダイヤ改正等の実施において地域の意見を反映する仕組みの創設について

 じぶんたちの思い通りになることのみを指して「反映」というのは、まったくいただけません。速達性や最低の運行頻度の確保(ひいては保証)などは、個別に要望したり協議したりすることで実現を目指すのでなく、(全国で共通の)法律や(制度としての)都市計画を通して目指さなければいけないとの理解にございます。

・成田線活性化推進協議会「活動内容」ほか
 http://www.naritaline.com/top/katudou/jigyoukeikaku.html
 http://www.naritaline.com/top/suisinkyougikaitoha/suisinkyougikaitoha.html

 > 特別快速列車の我孫子駅停車が困難な場合には、平成18年3月のダイヤ改正により減便された快速列車の本数復元を前提に、特別快速列車の廃止も含めて検討いただくよう要望していきます。

 えーっ!

※えーっ! すなわち、▼特別快速(土浦以北は各駅に停車)が勝田発着で我孫子に停車しながら普通列車が我孫子−土浦間を5両編成などで往復しつつ、▼我孫子−成田間にも、常磐線の特別快速との接続に見あう編成、表定速度の列車が運行されつつ、成田空港方面への主要な経路として使われていくということがなければ、我孫子への特別快速の停車は見込めないと思いまーす。(棒読み)

 > 事業
 > (1)成田線の輸送力増強及び利便性向上に関すること
 > (2)成田線の利用促進に関すること
 > (3)沿線地域の魅力の創出と周知に関すること
 > (4)資料の収集及び情報交換

 専門家の不在を疑います。あるいは古いままアップデートされにくい環境にあるのではないかと疑います(=人がわるいのでなく環境がわるい!)。県立図書館や国会図書館、ひいては紹介状をもらって鉄道総研の図書館を利用させてもらったり、鉄道総研の人に中立な立場や技術的な見地からレクチャーいただくようなですね(略)もっと正式な自治体の業務として、きっちりかっちり取り組んで行けるはずですよ。「(長年、要望しておりさえすれば)いつかきっとかなう!」というのは幻想だったのかもですよ(=要望の有無にかかわらず実現した、の意)。

 そして、(議会でなく自治体としてじゅうぶんな勉強を前提として)予算を確保して、しっかりした調査を調査会社に発注できなくてはいけません。

※調査といって、アンケートじゃないですよ。ODデータの分析やGISを駆使した、そっちのほうの調査ですよ、の意。

 内房線も成田線も、単に「これまでずっと走ってきた」ということだけでは、単に「現在線はここです状態(現状ママ)」に留まっているのであって、「本市の都市計画に不可欠な路線である」とおっしゃるためには、都市計画鉄道に位置付け、立体交差化も完遂しなければいけないのですよ。手続きなし、予算措置なしでコトバばかりを転がすようなのは、よくないなぁ。(※私見です。)そして、用地買収の先には収用という制度もきちんと運用されなければ(法制度の体系としての)都市計画は成り立たないのであって、「収用=イコール=ケシカラン」との固定観念はなくしていきたいと思うのです。本当でしょうか。

 そうした自治体側の仕事がなされないまま内房線や成田線を増発することは、いま端的に、▼(統計的に)踏切事故の頻度が高まるリスクや、▼沿線の騒音・振動が増え、防音や離隔など対策されないままでは、ただちに公害となるというようなことがあって、増発のしようがないとわかります。

 「活性化」に努めて「乗車人員」が増えさえすれば、現状の施設のまま増発がなされるだなんて、幻想なのですよ。


★【奈良線】京都府「京都府からの提言」ならびにJR西日本「奈良線第2期複線化事業 環境影響評価 方法書」を読み解く


 鉄道に限ったことではありませんが、計画や事業のスキームというものは、全国共通の合理性のあるものでなければなりません。成田線を愛するあまり成田線しか見えなくなるようなことは、少なくとも自治体の職員にあっては、あってはならないことであるとわかります。

 「東の成田線」に対して「西の○○線」といって並び称せるような線区はないでしょうか。奈良線という線区があるそうですよ。なるほどなるほど…その発想はなかった!(※表現には多分に演出が含まれてございます。感じかたには個人差があります。)

・京都府の見解です
 http://www.pref.kyoto.jp/seisakuteian/documents/1278060724026.pdf

 > 京都府からの提言
 > JR奈良線は、京都・奈良・大阪に及ぶ広域的な環状ネットワークの一部として、また、関西文化学術研究都市へのアクセスとして重要な路線であることから、近畿地方交通審議会答申にも位置付けられた複線化は、地域の発展にとって重要な社会資本整備である。
 > JR奈良線複線化整備については、交通の安全の確保・円滑化、経済基盤の強化、生活環境の保全等に直結するものであり、鉄軌道整備についても、本年度創設された下記の社会資本整備総合交付金の基幹事業に位置づけ、活用できるようにすること。

 > (図より)
 > JR藤森−宇治
 > 新田−木津

 > 山陰本線複線化に係る
 > 事業費負担の状況(京都市域除く)
 > JR西日本 1/3
 > 京都府 1/3
 > 沿線市町 1/3

 > 京都府の担当部局
 > 建設交通部 交通政策課

 スバラシイ! 事業の根拠として答申を引用し、事業性の担保として交付金に言及するという、これでこそ都道府県レヴェルの議論というものですよ。…その発想はなかった! そして、「なんとなく協議会」の類でなく、県として見解を示されているところが「新しい最新式」だと感じました。(感想には個人差がございます。)…もっとも、片町線と近鉄線と奈良線がぜつみょーにむにゃーっと並行して並走していることには、いま神妙に、まったく触れていないのですけれどもね。(メッソウでした。)

 そして、「美しいハーモニーを奏でる「負担割合」の決定方法」([3197])の通り、このように「1/3」ずつ(※)という配分にしかできないのですから、あとはもう、「沿線市町」の分母を大きくして個別の市町の負担を小さくするくらいしか、方法はないでしょう。本当でしょうか。

※算定根拠を積み上げるのでなく、名目的に「折半」する、の意。仮に「3.5対6.5」などという変わった比率にするためには、きわめて明快で合理的な算定根拠が求められるとわかります。しかし、そこまで持ち分をはっきり分けて算定できるなら、事業を分割してしまえ(個別に責任を持たれよ)ということでもありましょう。もっと本当でしょうか。牧原センセイ([3103])も参照。

・(参考)牧原出「先端とは何か」(2014年5月)
 http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/research/sentan/relay011_ja.html

 > いずれもこれまでの日本の○○学研究そのままでは解明できない。
 > いわば帰国後も留学中だったのである。

・JR西日本の見解です
 https://www.westjr.co.jp/railroad/project/file/01-02_jigyosya-mokuteki.pdf

 > 図2.1-2 奈良線の現況概要図

 おおー(略)。キロ程と跨線橋、それに行政界(市境)を記載してこその「現況概要図」ですぞ。線路と駅しか見えなくなるのはいただけないなぁ。(※見解です。)

 > 奈良線の事業の経緯は以下に示すとおりである。

 その下の部分が枠の中に書かれてあるのが深いなぁ。…実に深いなぁ。これ、明治時代などもそうですけど、JR西日本としての事業ではない、JR発足後も、単独での事業ではない、ということを「枠」で明示しているのだと、このような理解にございます。

 > 奈良線の平成24年度の各駅の一日平均乗車人員を表2.1-1に示す。これによると、特に京都〜城陽間の平均乗車人員が多いことがわかる。

 いや、まあ、その、確かにわかりますけれど、うーん。

 > 2.1.5 奈良線の列車本数
 > 奈良線の平成26年3月現在の列車本数は197本(平日上下計)である。本事業完成後の列車本数については未定であるが、将来の実際の列車本数については、沿線の利用などを勘案しながらその都度のダイヤ改正として考えていくことになる。
 > ただし、本事業の目的は、ダイヤが乱れた際の回復性を向上させることおよび行違い待ち時間を解消することであり、列車の増発が目的ではない。従って、今後の環境影響評価の予測においては現在の列車本数を前提とする。

 スバラシイ。一昔前の「複線化=イコール=輸送力増強」との『1点ばり!』でなく、もう少し複雑で状況的で推移的なソレをきちんと述べるというのが「新しい最新式」なのだと早合点しました。

 > 本事業の目的は、単線区間の一部を複線化することにより、異常時のダイヤの回復性を向上させること及び列車行違い待ち時間を解消することであり、以て線区全体の輸送品質を向上させることである。

 この項より先に目的が書かれちゃっているのがアレではありますが、の意。(恐縮です。)

 > 輸送人員に合わせて、京都〜城陽間と城陽〜木津間で輸送力に段差を設けている。

 「段差」との用語が公式に使われていることが確認できます。…いえ、意外と見つけるの、むずかしいんですよ、「段差」って。本当でしょうか。

※非公式に、口頭では『段落し!』などと…落とすって、なんですかっ&お客さまにむかってだなぁ(略)…ゲフンゲフン。こういう用語は、「○○の段落とし」という具合に、目的語を明らかにしないといけません。何でもかんでも『段落し!』といって、その実、「Aの段落とし」「Bの段落とし」というように目的語がさまざまである