・CTCとは ・CTCの「情報化」、ATSが下支え ・【吾妻線】1971年にCTC導入、2014年に改修か ・【青梅線・五日市線・八高線】拝島駅の管轄、当面存続か ・「どこトレ」と「JR東日本アプリ」「NETRAINS+」 ・『「ATACS」待ち』で、システム関連の投資時期が前後か
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3月26日のダイヤ改正から、JR東日本の列車運行情報サービス「どこトレ」で、新たに八高線の全線や吾妻線などが案内対象線区に追加されることが明らかになりました。24日、JR東日本が発表しました。ダイヤ改正にともなうお知らせが改正の2日前になるまで公表されないのは異例です。
「どこトレ」は、各地の指令室がCTCなどを通じて把握している列車の在線位置や遅れ時分の情報を、インターネットを通じて一般に提供するサービスです。
JR東日本のプレスリリースによりますと、26日から新たに「どこトレ」で案内される線区は、▼中央本線(甲府〜小淵沢間)、▼青梅線(西立川−奥多摩間)、▼五日市線(拝島−武蔵五日市間)、▼八高線(八王子−高崎間)と、▼吾妻線(渋川−大前間)です。
青梅線では、構内にポイントのある駅だけが案内の対象とされています。なぜ、このような制約があるのでしょうか。これは、「どこトレ」で使用される情報が、CTCなど既設のシステムで集約されている情報に限られているためとみられます。
●CTCとは
CTCは、各駅のポイント(分岐器)を指令室から遠隔で切り換えるための通信と制御のシステムです。構内にポイントのある駅では、ダイヤに応じて正しくポイントを切り換える(列車の「進路」を開通させる)ために、駅の構内や、その直前の区間(場内信号機の外方)の線路に車両があるかないか(在線情報)を、「軌道回路」と呼ばれる電気的なしくみを通じて常時、把握しています。
CTCは、1940年代に原型がみられ、日本では1950年代に導入が始まったシステム(装置)で、当時のCTCでは、コンピューター(電子計算機)は使われていませんでした。在線情報といっても、表示盤のランプが点いたり消えたりするだけの簡単なもので、ある場所の線路上に車両があるかないかという、本当に単純なことしかわからないものでした。どの列車がどこにあるのかという「情報」は、まるでチェスの駒のように、「列車番号を書いたマグネット」を人の手で動かして「表示」していたということです。
※「ピタネット」については[2947],[2949]で紹介しています。また、呼びかたは不明ですが、市販のキッチンタイマーを使用して、ポイントを操作するタイミング(駅からの出発の時刻など)の失念を防ぐ方法が取られていることもあるようです。
※「システム」と「装置」は、時代や文献により、▼同一の範囲を指す場合と、▼全体を「システム」と呼び、その構成要素(部分)を「装置」と呼ぶ場合の両方があります。また、いくつかの機器がまとまって一つの機能を実現する場合などに、機器をまとめて「装置」と呼ぶこともあります。
※技術上の制約を「運用でカヴァー」するのは、いつの時代も変わりありません。装置の機能として、当時は実現できなかった▼他の(線区や駅の)装置の表示盤に表示される情報や▼編成の長さ、▼駅間での正確な在線位置などについては、電話などでの連絡や目視での確認などによって成り立っていたということです。
・個人のブログ「三陸鉄道北リアス線CTCセンター見学 」(2013年8月18日)
http://mrj501.blog.shinobi.jp/%E9%89%84%E9%81%93/sanriku-ctc
・「市販のキッチンタイマーを用いた手動PRC」
http://file.mrj501.blog.shinobi.jp/20111115-02.jpg
http://file.mrj501.blog.shinobi.jp/20121225-08.jpg
・「列車番号を書いたマグネットによる手動表示」
http://file.mrj501.blog.shinobi.jp/20091118-10.jpg
・「テプラを用いた操作ヘルプ機能」
http://file.mrj501.blog.shinobi.jp/20091118-02.jpg
●CTCの「情報化」、ATSが下支え
日本では戦後、全国的に交流電化が進められることになり、このとき、列車の在線を検知する「軌道回路」が、50Hzや60Hzの交流電源のもとでも正しく動作するよう、「AF軌道回路」(当時は「キロサイクル軌道回路」と呼ばれました)が開発されました。これが新幹線のATCの実現につながったといわれています。
現在の在来線のATSには、ATCの技術も反映され、列車側から地上側に対して「列車番号(列番)」を送信する機能などが付加されるようになっています。この「列車番号」が、CTCなどのシステムや、いわゆる「スマート踏切(賢い踏切)」にも活用されています。
いま、ATSは、列車を停止させるための保安装置というもともとの役割だけでなく、CTCなどのシステムに「列車番号つきの在線情報」(いわば「顔の見える在線情報」)を表示させるための、最も足元での重要な役割を担っているのです。
※新幹線のATCについての『歴史的』な話題として、「NHK-FM 音の風景」([3124])、「曽根センセイが高校3年生だったころ」([3137])もお楽しみください。
・情報処理推進機構(IPA)「先進的な設計・検証技術の適用事例報告書 2013年度版」(2014年6月30日)
https://www.ipa.go.jp/files/000039240.pdf#page=11
●【吾妻線】1971年にCTC導入、2014年に改修か
ウィキペディアによりますと、「吾妻線」は、▼1945年に「長野原線」として部分開業、▼1971年にCTCを導入、そして▼2014年にダム建設にともなう新線への切り換えが行なわれています。2014年度の線路切り換え工事のあと、さらにCTCなどのシステムを仕上げる開発工程などが2015年度に組まれたものとみられ、その完成を受け、今回「どこトレ」にも対応することができる「新しいCTC」に生まれ変わったとみられます。
「吾妻線付け替え工事」はダムの予算から支出され、いわば、「ダム建設がなかったらCTCは昔のまま」だったのではないかとも思われることでしょう。「どこトレ」に対応する費用は、線路の工事やCTCの改修にかかる費用と比べればほんのわずかなものと推定されます。「どこトレ」のためだけにCTCを改修することはありえなかったところ、思わぬ格好で最新の「どこトレ」が棚からボタっと落ちてきた格好といえそうです。
・ウィキペディア「吾妻線」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%BE%E5%A6%BB%E7%B7%9A
●【青梅線・五日市線・八高線】拝島駅の管轄、当面存続か
既報の通り、拝島駅では、既設のCTC・PRCから、青梅線・五日市線のみをATOSに移管する予定があるとされています。しかし、拝島駅の既設の装置では八高線も管理の範囲に含まれているとみられることから、どのように移管が実施されるのかに注目が集まっていました。
拝島駅では、2006年11月に最新のCTC・PRCが使用開始になっていると伝えられており、今回の「どこトレ」への対応には、2006年から使用されている装置はほぼそのままで、拝島駅のCTC・PRCが集約している情報を、「どこトレ」のための情報配信サーバーへ転送するためのサーバーなどを開発、設置したとみられます。
青梅線では、▼青梅駅構内の線路の配線を変更する工事、▼拝島駅電留線の有効長を伸ばすためとみられる工事が進められており、さらに▼グリーン車連結のためのホーム延伸工事にともなって、一部の駅で(物理的な支障としての)信号機の移設など、信号に関わる工事が行なわれると予想されます。また、JR東日本・八王子支社のプレスリリースによりますと、青梅駅構内の工事は完成時期が延期され「2019年 秋」になるということです。
八高線では、高麗川以北の非電化区間で▼駅間での列車の在線位置を高い精度で把握するためにGPSを用いる新しい装置(「GPS列警」)が整備されると発表されていました。「どこトレ」での対応において、青梅線のような制約がなく全線の全駅が対象となっているのは、列車の在線情報をCTC(軌道回路)ではなく「GPS列警」のシステムによって集約しているためとみられます。
・JR東日本 八王子支社「青梅駅新設ホームの完成時期を変更します」(2016年1月25日)
http://www.jreast.co.jp/hachioji/info/20160125/20160125_info.pdf
・このサイト「【ATOS拡大】 青梅線・五日市線、横浜線、京葉線に導入へ」
http://atos.neorail.jp/atos3/news/news_100920.html
・このサイト「【青梅線】 青梅を2面3線化、2017年春ごろ完成予定」
http://atos.neorail.jp/atos3/news/news_140822.html
・このサイト「拝島駅」
http://atos.neorail.jp/atos2/future/haijima.html
※「GPS列警」については[3110]で紹介しています。
●「どこトレ」と「JR東日本アプリ」「NETRAINS+」
一般向けの在線情報の配信では、現在、▼「どこトレ」、▼「JR東日本アプリ」(東京)、それに▼「NETRAINS+」(千葉)と、エリア別に複数のシステムが併存しています。
列車の在線位置や遅れ時分の情報は、指令員が指令室にいながらにして、線区全体の状況をリアルタイムで詳細に把握するための重要な情報です。このため、▼情報の生成や取得(「軌道回路」「CTC駅装置」)から、▼情報の伝送と集約(「CTC回線」「CTC中央装置」)までの段階では、指令室のあり方(物理的な所在地や、組織上の位置づけ、属する支社など)と密接に関係します。
本来、これらの情報は指令室より「上」に伝達される必要がありません。指令業務のために必要となる情報は、指令室で「消費」されて「役割を終える」のです。いわば、「軌道回路」からの『生の情報』の流れは「指令室止まり」だったといえます。
複数の指令室から情報を集約するためには、指令室より「上」あるいは『横』に、新しい部署を設けなくてはなりません。伝統的な「上意下達型」の組織では、系統の異なる部署間で、「上」を経由しない『横』の直接のつながりをつくりにくいことが知られています。
「指令室が異なればアプリも別」というのは、技術上の制約ではなく、組織上の制約によるものとみられます。
青梅線・五日市線の在線情報の配信が、「JR東日本アプリ」ではなく「どこトレ」での対応となったことは、▼指令の「ATOS」への移管を待たずに情報提供サービスが開始されたということで、利用者の利便を前倒しで確保しようという意図がうかがえます。しかし、将来、▼「ATOS」への移管に際して、アプリも「どこトレ」から「JR東日本アプリ」へ『移管』されるのか、ちょっと気になるところですね。
●『「ATACS」待ち』で、システム関連の投資時期が前後か
2018年以降には、新しい電波割り当て(見込み)を受けて「ATACS」の導入が進められる計画です。
「GPS列警」のための通信機器は、技術的には「ATACS」とも兼用が可能とみられる(「ATACS」も含めて、無線によるデータ通信の部分はきわめて汎用的で、ほとんど「携帯電話」そのものである)ことから、▼ATACSの展開開始後にATACSの一部となる装置は前倒しで整備(八高線)される一方、▼ATACSの導入によって不要となる従来型の装置の新増設を控える(青梅線など)という方針があるのではないかとみられます。
※本件について、このサイトとして直接の取材等をいっさい行なっていないことを申し添えます。すべて、公表された資料に基づく補間的な推測によるものですが、補間(間を補うこと、点と点を線で結ぶこと、3つ以上の点から重心を求めようとすること、カクカクぎざぎざの線を「なだらかにスムージング」すること)だけで推測できることはとてもたくさんあります。「公表されていないこと」の大部分は、「公表するまでもないこと(と当事者が考えたり、考えることすらしないこと)」でできている…のかも、しれませんね。
・JR東日本「どこトレ」
http://doko-train.jp
・「JR東日本アプリ」
http://www.jreast-app.jp/
・JR東日本 千葉支社「NETRAINS+」
https://netrains.jreast.co.jp/
・JR東日本のプレスリリース「列車運行情報サービス「どこトレ」のサービス拡大について」(2016年3月24日)
http://www.jreast.co.jp/press/2015/20160314.pdf
・大同信号「沿革」
http://www.daido-signal.co.jp/company/history_detail.html
・三陸鉄道「三陸鉄道のあゆみ」
http://www.sanrikutetsudou.com/?p=382
・「一番くじカピバラさん〜春おとどけにきました〜」より「D賞 卓上便利フィギュア」(2009年3月)
http://tryworks.jp/fun/assets_c/2009/03/kapibara%20haru-thumb-500x700-460.jpg
・NKKスイッチズ(日本開閉器工業)「防水形照光式押ボタンスイッチ」
http://www.nkkswitches.co.jp/pdf/pushbutton_LB.pdf#page=8
・マックス「ホッチキス物語」
http://wis.max-ltd.co.jp/op/h_story.html
・個人のブログ(2015年9月29日)
http://star.ap.teacup.com/cisal-l/1765.html
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