フォーラム - neorail.jp R16

Googleの「AIによる概要」で誤った内容が表示される事象について


発行:2014/10/14
更新:2015/12/11

[2947]

【2時間で読む・10年後に読む】

2時間で読む「東京総合指令室」(交通新聞社新書)

フリーソフト イライラ 乗務員 著者 万人 社長 考察 設備 施策


(約3000字)

 交通新聞社新書の新刊「東京総合指令室 東京圏1400万人の足を支える指令員たち」(川辺謙一)が発売されました。駆け足になりますが、ご参考まで。

・交通新聞社「新書」(ただし現時点では10月の新刊についての情報は掲載されていない)
 http://www.kotsu.co.jp/shinsho/

・川辺事務所カワベリー
 http://kawaberry.com/news/2014.html

・ツイッター
 https://twitter.com/kawaberry/status/520545838435540992

※余談ですが、いいですねぇ、「カワベリー」。Kurobey氏のフリーソフトのファイル名(の綴り)「Ackambey」と双へきをなす見事なセンスで、私的(わたしてき)にツボです。

・「ピタネット」
・「お客さま目線」
・「くりはら田園鉄道」

 技術的には、新しい内容はありません。指令室の現場を見て著者が気づいたことが実際にはいろいろあったとしても、最終的に、これまで公表されている内容を越えるものはチェックによって削られているはずです。

 そのような限界は踏まえた上で、指令室、というより個々の指令員や、その統括を行なう人たちの「生に近い声」を知ることができるというのがうれしいところです。「ピタネット」といった、現場での呼ばれ方が出てくるのは、読んでいて楽しいものです。

※避難所で手書きの壁新聞が役に立つように、いざという時のための技術の維持として「ピタネット」も温存しておいてよいのかもしれません。

 お客さまがなぜ「イライラ」するのか、それを工学的に検討していくことが必要です。「お客さまの声」や「イライラ」が、対症療法によって解決できるものとできないものとに分かれることは自明ですが、対症療法では解決できないものをどうやって解決していくのか、そのビジョンを持っていないのではないかと疑います。

 繰り返し出てくる「お客さま目線」という言葉(著者による表現ではなく、取材に応じた広報や、インタビューに応じた社員が使った言葉)が、この点(コンピューターのソフトウェアでない、人間系という意味での「ソフト面」)に対するJRの社内での温度や空気というものを象徴しているように感じます。

 指令室という、いま、現状の技術や設備、態勢によって目の前の仕事に取り組むという意味での「現場」では、これでよい(むしろ、とてもよい)といえましょうが、上のほうの方までが現場の感覚でいては、だめなのです。現場の多大な苦労を、単に「がんばり」「意識が高い」といって、その軽減よりも、さらにがんばらせる方向で施策を講じていくことは、たいへん「後ろ向き」なことといえます。

※JRの初代会長が感じた「怒り」に対し、結局、本質は何もかわっていないということになってしまいます。

 研究開発の現場では、当然のように将来の「新しい仕事」「新しいシステム」を作っていくため、現状にとらわれない柔軟な発想をすることが必要で、それができる人たちが研究や開発に携わっています。しかし、研究や開発への投資を決めるのは、必ずしも自分では研究や開発には携わってこなかった人たちです。このギャップによって、新しい技術の開発が遅れたり、開発されたのに導入できなかったりしては、たいへんもったいないことといえます。

 それはそれとして、途中駅での折り返しの話を興味深く読みました。使用頻度の低い中線(折り返し設備)については、運転の訓練を受けない乗務員もいた(運用に必要な人数だけに訓練を行なっていた)ということで、そういうことだったのか、と納得しました。しかし、運用の制約をなくすために、なるべく多くの乗務員に同じ訓練を行なうという話が、「担当区所」での「意識」という話にされている(著者ではなく、社内で、されている)点が、たいへんまずいと思いました。必要な施策は行なって当然で、「意識」の問題ではありません。

 ATOS導入の前後が、「鉄道会館」社長の井上進氏によって「原始時代から平成へ」と形容されていますが、まさにそうだと思います。同時に、この変化は、「がんばった」とか「意識を高めた」とか「一丸となって取り組んだ」からできたのではなく(そういう面もあるでしょうが、それだけでなせるものではなく)、(既にある)新しい技術の的確な導入や、必要となる新しい技術の開発にきちんと取り組んだ、工学的な取り組みの結果、得られたものであるという視点が(著者にも、井上氏にも)希薄なように見えます。著者が工学的なバックグラウンドを持つだけに、なおさらもったいないという印象を受けます。

※何でもかんでも「意識」の問題にしてしまうことを「原始時代」とするならば、この点ではまだ「原始時代」を抜けきれていないのかもしれません。

 もっとも「一概に説明できない改良プロセス」と著者が表現しているように、まさに一概にはいえませんので、インタビューの中でいろいろわかったこともあるが、読者が混乱しないようにという「上から目線」で、本書では省いたということかもしれません。一般向けの新書としてたいせつな配慮であり、よい編集(方針)といえます。

 そのためもあってか、具体的な話しか出てこず(いや、それが本書のメインであるのは承知しておりますが、その上で)、抽象的な話(他社やグローバルに一般化するような話や、将来の目標や予測)がほとんど出てこないのが、たいへん物足りなく感じます。せっかくドイツを訪れながら、都市鉄道の黎明期における日独の土木設計の共通点に目が行くようでは、新しいものを作っていく方向での考察にはなりえません。なぜ、ドイツの利用客は「イライラ」していないのでしょうか。

 欧米から技術を学んだ日本が、これからは新興国に教える側になった、と著者はまとめていますが、そんなことでよいのでしょうか。いま、どこにもない技術は、誰が作ってくれるのでしょうか。日本では、作らなくてよいのでしょうか?

 高校生以上という意味での「一般向け」には、ただの人間ドラマであるほうが親しみやすいのでしょうが、少なくとも工学部で学ぶみなさんは、本書のレベルで立ち止まっていてはいけません。15年後に本書の続編が出たときに、そこで描かれる未来を、自分たちで作っていかなくてはならないのです。工学部で学ぶということは、そういうことです。


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