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相鉄・東急直通線に関して、訂正です。東急線の保安装置に関して理解不足でした。お詫び申し上げます。
まず、東京メトロで現在、使用されており、同社線に乗り入れる私鉄各線の車両が対応している保安装置は「CS-ATC」ではなく「新CS-ATC」でした。
「新〜」という表記が趣味的なものだという誤解をしていましたが、正式な名称が「新CS-ATC」だったのでした。どこかの「新しい」タブレット端末のような命名法であります。よい命名法とは思いませんが、公式である以上、こう呼ぶしかありません。
・東京メトロ「新CS-ATC」
http://www.tokyometro.jp/corporate/csr/report/pdf/env2012_11.pdf
> 東京メトロでは、全線で新CS-ATCを導入しています。従来のCS-ATCは、
> このCS-ATCをさらに高性能化した新CS-ATCは、
そして、東急線の保安装置ですが、まず「CS-ATC」ではないことがわかりました。その上で、最終的には「ATC-P」らしい、とわかるのですが、そこまでには複雑な事情がございます。以下、順に説明します。
・東急電鉄「安全報告書2014」(2014/9)
http://www.tokyu.co.jp/csr/tkk_anzen/anzen_report_2014.pdf
> ATC(Automatic Train Control 自動列車制御装置)
> 【導入路線:東横線、目黒線、田園都市線、大井町線、こどもの国線】
・東急電鉄「東横線元住吉駅構内における列車衝突事故の調査結果と対応について(中間報告)【再掲出】」(2014/8/7)
http://www.tokyu.co.jp/information/list/index.html?id=767
東急電鉄としては、一般向けの文書では「ATC」という表記で一貫しています。従来の「ATS」に代わって「ATC」を導入した、という点を強調しており、導入されたATCの細かい仕様やバージョンは、一般に公開するものではない、という考えでしょう。広報として、とても好感が持てます。が、いざ細かい仕様を知りたいとなると、一切資料が公開されておらず、困りました。
ウィキペディアを見ますと、東急線では「ATC-P」なるATCが導入されており、これは東京メトロの「新CS-ATC」の上位互換となるものだ、と説明されています。本当でしょうか。その出典としては個人のページが挙げられているのですが、その個人ページでは参考文献が挙げられていました。
※どこかで見た構図([2932])ですねぇ。
・個人のページ
http://railsearch.s28.xrea.com/atcats/p-atc.htm
記事のタイトルだけではわからないのですが、本当にどこかの資料に「ATC-P」という表記が出てくるのでしょうか。「運転協会誌」の「我が社のATCシステム」という記事で、東急電鉄の人が自ら「ATC-P」と書いていれば安心できるのですが、この記事は2001年です。現在の「ATC」は、2008年ごろからの導入ですので、ここで挙げられている古い資料で「ATC-P」と記述されているとは考えられません。
とはいえ、「ATC-P」という名称らしいとわかれば、Googleで検索です。
・堀江車輌電装「実績とお取引」
http://horie-sharyo.co.jp/company/results.html
> 東急テクノシステム様との実績一例
> 9000形 ATC-P化改造工事
厳密には、漏えい的な何かなのかもしれませんが、公式に「ATC-P」という名称があるらしい、ということは確認できました。
・東急テクノシステム「鉄道電気関連事業」
http://www.tokyu-techno.co.jp/business/service/tetsudoudenki/shingou.html
さすがに東急グループ、子会社でも「ATS」「ATC」という表記で一貫しています。さすがです。
とはいえ、なぜ、東急電鉄が公表していないとみられる「ATC-P」という表記が、ここまで広まっているのでしょうか。
もちろん、趣味的にはいろいろなチャネルがあり、それとなく社内用語が漏れ伝わってくるだろう、あるいは車両の運転台に書いてあるのが客室から見えるかもしれない、とも思いますが、意図的に公表されていないものに言及していいのでしょうか。公表されている資料から推測できることをあれこれ云々するのは自由でありますが、ものの名称、こと正式な名称に限っては、どこかで公開されていない限り、なんで部外者が知っているんだ、ということになります。このサイトでは、いったいなんと表記すればいいのでしょうか。
実質的な話としては、名称はいろいろですが基本は同じもので、各社ごとにコードの割り当てが違ったり、拡張機能を目いっぱい使うか、基本だけを使うかといった、パラメータ的な違いしかないんだと理解しております。車上装置としても、1台で各社に対応できています。もう、各社でのローカルな名称など、どうでもいいではないですか。
・京三製作所「製品一覧」
http://www.kyosan.co.jp/product/product02.html
> ATC統合型車上装置
・日本信号「統合型車上装置」
http://www.signal.co.jp/products/railway/productsinfo/2010/03/post-12.php
> 本装置は、ATC、ATO、ATSの車上装置を統合し、送受信器のみならず制御器も含めて一体化した装置です。
> 運転台の切替スイッチの条件指定により、ATCまたはATSのいずれかの機能を選択できます。
こういう仕様を見ますと、本当にソフトウェアの時代だなぁ、と実感します。このような「統合」ができてこそのデジタル化、ソフトウェア化といえます。よい時代になりました。特に、ATOまでも統合されているというのは、夢がふくらみます。というのは余談ですが、本題としては、技術的に大きな違いではなくなってきている以上、単に「ATC」と総称するほうが、むしろ適切なのではないかと思えてきます。
そういう意味でも、やはり、さすが東急電鉄ですね。
趣味的にも、やみくもに詳しく、何でも現場レベルの呼び方で呼ばないと気が済まないというのは、ちょっと行きすぎのように感じます。かといって、細かい仕様を無視していては、正確な理解にもいたりません。技術や業界とのほどよい距離感といいましょうか、どういう立場で、どういう側面に着目しているのかというのが、ものをどう呼ぶかというところに表れてくるものです。よく考えながら、続けていきたいですね。
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