フォーラム - neorail.jp R16

Googleの「AIによる概要」で誤った内容が表示される事象について


発行:2015/4/30
更新:2016/2/13

[3036]

【鉄道と情報】

運行管理とUI(2) 見にくい「表示灯」ミス誘発か、累積的な「進化」阻む断絶

実装 代用手信号 表示灯 ユーザーインターフェース CRT ドラッグ 中央装置 対立関係 IBM


(約5000字)

 [3035]の続きです。

 信頼性の高いFC-98を採用し、特注のキーボードを起こしておきながら、同じく特注の表示灯(報告書にある「開通表示灯」を含む一連の表示灯がぎっしりと実装された小型の表示装置)については、およそ人間工学と無縁なデザインで視認性も情報の明瞭さも確保されず、というチグハグな状況で、(当時としてはしかたないともいえますが)ユーザーインターフェースがトータルにデザインされた形跡がありません。異常時に大半の作業が人手になってしまうという面と合わせ、たいへんミスを誘発しやすい状況にあった(そのため、現に重大インシデントが発生した)といえるのではないでしょうか。

・東邦電機工業
 http://www.toho-elc.co.jp/product/index.html

 写真にある表示灯のメーカーは不明ですが、ごく普通の表示灯(測定器やDC電源装置などと同じ汎用の金属ケースに穴開け加工してランプ付きスイッチを埋め込み、しかるべきI/Fをつけて一丁上がりという、製造というよりは「製作」)に見えます。

 改めて、報告書にある「写真2 開通表示灯」に着目してみます。

 > 上り開通   一斉停止   下り開通

 > 下り接近   **切替   上り接近

 > 系切替確認   故障確認   運行管理系故障確認

 > 下りトリガ抑止   停電確認   上りトリガ抑止

 > **手動   印字要求   出区トリガ抑止

※「*」は判読できず。

 普段は「きちんと動いているか見えればよい」という程度の重要度しかないとみられるこの表示灯を、目視で確認して代用手信号というのは限りなく無理があるように見えます。極論すれば、誰が担当してもミスをしやすい、人の問題であって人の問題でない、ユーザーインターフェースのせいで、誰でも重大インシデントを発生させ得るという状況だったともいえます(※)。この状況下では、ミスをした担当者でなく、ミスを誘発するユーザーインターフェースを温存し改善しなかった判断こそが問われてきます。

※だからといってただちに事故が頻発するというわけでは決してなく、また、そうしないための人間の注意力も重要であり、現にこれまで事故を防いできた人々の努力には敬意が払われて当然であります。人、システム、体制その他、あらゆる状況を地道に観察することなく、上辺(うわべ)だけ、あるいは自分の狭い職域だけで「昔はだめだった」あるいは「昔はよかった」などと単純化して評することは許されません。それでもなお、人の注意力ばかりに過度に依存する状況を続けることは将来的に無理があるため、また、自動化によって人をはるかに凌駕する正確性や性能が生まれる(可能性がある)ことから「システム化」を進めているのだということでもありましょう。人口動態に由来する社会問題([3030]も参照)としても、「お客さま」としても、あるいは趣味的にも、可能な限り幅広く、全体像をとらえて変化を追っていきたいですね。

※当務駅長が初めての対応だったというのも、電子連動装置の故障頻度がきわめて低く抑えられていたことの裏返しです。

 こうしたこともあり「システム化」([2856]も参照)が急がれてきたわけです。とはいえ、以前の状況が「まずかった」と断じるような記述や情報は当事者からは出てこず、あくまで「前よりもよくなった(前もよかった)」と記述せよという(社内的・業界的な)制約でもあるかのように見受けられます(「幅広車両の投入」で「混雑緩和が図られた」上で、「さらなる混雑緩和」を図る話[2963]も参照)。これは果たして「素直そして正直」なことなのでしょうか。

 別の観点では、「システム化」(PRCを異常時も自動にする)という施策が単独ではなく、駅の信号扱い所から指令へ権限を移すという施策が同時に進められることによって、信号扱い所でのユーザーインターフェースのよしあしが総括されないまま、まったく独立に、新規に、ATOS中央装置などの指令卓が作られていくことになっていったように見受けられるという問題があります。

・ATOSの指令卓
 http://www.journal.ieice.org/conts/kaishi_wadainokiji/200301/k0301_image/7.jpg

・ATOSの情報端末
 http://dbnst.nii.ac.jp/upload/images/research/534/pro/fe93c942b7775feebefb209d25a3efe6/fig0936std.png

 指令室以外の箇所で、直接の進路制御の権限を持たない係員が情報を参照するために設けられる情報端末の写真です。日立のPC「FLORAシリーズ」に、普通のキーボード、そして、なんとマウスがついています。

※くどいようですが、なんとマウスがついています、と繰り返してみます。とはいえ、当時のマウス(ボール式)はすぐにボールが汚れて、カーソルの動きが鈍くなったものでした。砂塵など舞っていなくても、衣服などから出るホコリと手などの皮脂だけで、ひたすら汚れていくのです。勉強したくない、仕事がはかどらない…そんな時、思い出したようにマウスの掃除を始めるという光景があったような、ないような。

・個人のブログ(2010年12月1日)
 http://d.hatena.ne.jp/Imamura/20101201/mightymouse

 > 「ぴたすちお」に「マウス掃除」という機能がある。タスクトレイのアイコンから「ツール」−「マウスの掃除」を選ぶと、こんなウィンドウが出てくる。

※いまなら、タッチパネルの指紋を気にするようなところでしょうか。とはいえ、タッチパネルに指紋が付いても操作にはほとんど影響しません。マウスの汚れは深刻な問題でした。マウスも「FA用マウス」だったりするのでしょうか。

・日立製作所「FLORA機種別形名対応一覧表」
 http://www.hitachi.co.jp/Prod/comp/OSD/pc/flora/support/model_no/desktop02.html

・米MAN&MACHINE社「Medical Grade(TM), Hygienic, Cleanable, Industrial & Education Keyboards & Mice」
 http://www.man-machine.com/
 http://www.man-machine.com/products/mice/index.htm

・発見と発明のデジタル博物館「超高密度鉄道の列車群を自律分散制御する東京圏輸送管理システム(ATOS)の開発」
 http://dbnst.nii.ac.jp/pro/detail/534

 > 輸送指令卓は、列車ダイヤの変更入力などを行うためのGD装置と、列車の在線位置、遅れ時分などを表示するCRT装置で構成されている。

 「GD装置」には特注のキーボードが備えられているのがわかります。また、手元の小型の画面はタッチパネルではないかとみられます。膨大な選択肢がある項目はさすがに特注のキーボードに起こすことはできず、番号で指定するなどの方法も直感的ではなくミスを誘発しやすいため、例えば駅名などをメニューから選ぶなどの方法がとられているのではないかと推測できます。(あくまで推測です。)

 また、写真では小型画面の上部に、いわゆる「テプラ」が2枚と、付せんが1枚、貼り付けられている様子が見えます。画面の表示だけでは、まだミスをしやすい部分でもあったのでしょう。ミスを防ぐためには「テプラ」でも何でも、あらゆる手を尽くさなければなりません。

・ツイッター(2014年8月20日)
 https://twitter.com/kizz/status/502344986742894592

 > UIデザインに関して「デザイナーはテプラを貼られたら負け」ってのはよく言われるし、実際正しいとも思うけど。昨日JRのエレベータで見つけたこれに勝てるデザイナー、ちょっと想像できない。

※それでも選び間違うと[543]のような事例が起きてくるのでしょうか。本当でしょうか。

・COMTRAC(新幹線の運行管理システム)の制御卓
 http://www.publickey1.jp/blog/14/sqipjr13.jpg

 時代が古いから、ということと、新幹線だから、という2面から、COMTRACでは専用の制御卓が起こされていたとみられます。この後の時代にさんざん言われた「ダウンサイジング」(大型コンピューターから普通のコンピューターへ)の流れで、現場のフロントエンドまでが、ユーザーインターフェースとしてのよしあしよりも、汎用品の採用が形式的に優先されていった面が少なからずあったとみえます。

・Wikipedia「ダウンサイジングの波(1990年代)」
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%A0#.E3.83.80.E3.82.A6.E3.83.B3.E3.82.B5.E3.82.A4.E3.82.B8.E3.83.B3.E3.82.B0.E3.81.AE.E6.B3.A2.EF.BC.881990.E5.B9.B4.E4.BB.A3.EF.BC.89

・「IBMメインフレーム:巨竜は生き残る」(2010年)
 http://www.waseda.jp/prj-riim/paper/RIIM-CaseNo18_Mainframe_100915b.pdf

 > 本ケースを、事前の承諾なしに講義、セミナー、研修等で使用することを禁止します。ご使用の際は、連絡をお願いします。
 > 連絡先:
 > 早稲田大学IT戦略研究所

※…とのことですので、「講義、セミナー、研修等」には該当しませんが「使用」にも該当しないよう、言及は控えます。

 ダウンサイジングだといわれていた時代に導入が進んだのが、各駅の電子連動装置ですから、FC-98に特注キーボードという選択(表示盤や操作卓を起こさないという決定)は、当時、たいへん正しかった(正しいとみなされた)のでしょう。

※大型の表示盤や制御卓を特注するなどもってのほか、普通のコンピューター(PC、FA用PC)を並べて、普通のキーボードをつなぐのがカッコイイ的な何かがあったのかもしれません。例えドラッグできないとしても、マウスがついていることはご自慢のソレ(ダウンサイジングによって可能になったことを象徴する何か的な)だったかもしれません。本当でしょうか。

 ATOSの導入は、その後の時代の話ですが、ここではかえって、指令に権限を集中させるため、係員が監視すべき情報の量も増え、画面の数も増え、むしろそちらをうまくさばけるようにという配慮のほうが優先されることになったとみられます。このとき、もし、旧来のシステムからの蓄積を活かして、部品ごと、モジュール的な発想でユーザーインターフェースが設計されていたなら、ATOSの展開を待たずに、駅の信号扱い所のユーザーインターフェースも部分部分に改良されていき、重大インシデントを防ぐような改善が2002年までには十分に可能になっていたともいえます。

 信号扱い所での操作ミスの事例や、係員の不満などを広く収集して、新しい指令卓のデザインが進められたのであればよいのですが、実際はどうなのでしょうか。ここには、仕事を奪われる側(駅)と奪う側(指令)という対立関係もあり、さらに難しくなっていたのではないかとみられます。

 合理的には、これまでの知見を常に累積して進化させていけるのが望ましい状態です。担当する組織や人が代わることで、別のモノを新しく作る(以前のモノとは関係ない)という視点や立場になってしまうと、知見の蓄積に断絶が生じてしまうのです。モノの問題でありつつ、人の問題でもあり、組織の問題でもあり、その影響を如実に反映するのが、結果としてできあがったユーザーインターフェースであるといっては「過言」でしょうか。


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