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E235系([3134])に関して、しかし法令の話です。
・NHK「JR山手線新型車両トラブル 次世代システム関係か」(2015年12月1日 16時38分)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151201/k10010325821000.html
> INTEROSの導入にあたっては、コンピューターで乗車率250%までを想定したシミュレーションを行ったということです。一方で本物の車体を使った走行試験で想定した乗車率は、40%程度だったということです。
> トラブルが起きた目黒駅では、定員1724人に対し、1600人ほどが乗っていて、乗車率は90%を超えていたとみられ、JR東日本は、走行試験で想定した乗車率が十分だったかどうかについても調べることにしています。
> JR東日本によりますと、新型車両は試運転として、ことし4月中旬から30日の営業運転開始の直前まで、およそ1万キロを走行したということです。この間、INTEROSについて、30日相次いだようなトラブルは起きていないということです。
さて、技術者やそのタマゴにあって、真っ先に落ちる『落とし穴』的なものとして、技術面だけ(いわゆるICT技術だけ、その次には、鉄道車両の技術だけ)に視野が狭まってしまう、ということがあろうかと思います。
以下、「試運転」とはどういうものか、いかにして実施することが許されるのか(どういう場合や様態では許されないのか)を見てみましょう。
・(参考)鉄道運転規則(廃止)
http://law.e-gov.go.jp/haishi/S62F03901000015.html
> (新製した車両等の検査及び試運転)
> 第三十六条
> 新製し、又は購入した車両及び改造し、又は修繕した車両は、これを検査し、試運転を行つた後でなければ、使用してはならない。ただし、軽易な改造又は修繕をした場合には、試運転を省略することができる。
> 2 脱線その他の運転事故が発生した車両で故障の疑いがあるもの及び使用を休止した車両を使用する場合には、あらかじめ当該車両を検査し、必要に応じ試運転を行わなければならない。
線路、電気設備についても、ほとんど同じ文言で、試運転かくあるべしと定められています。いかにも「電気鉄道に詳しい」…いえ、『ATC以前』(高校3年生の曽根センセイ[3137])ともいえる、古典的な内容であるという印象がありましょう。
> (車両の検査及び試運転を行う者)
> 第四十五条
> 車両の検査及び試運転は、当該車両の所属する事業を経営する者が行うものとする。
とのことで、「メーカー保証」で云々、などと、あたかもひとつの家電製品を買ってくるかのような、あるいは、バス事業者やタクシー事業者が自動車を買ってくるかのような話ではないんだということです。イメージだけで示すなら、「車両ひとつ」でも、工事の完成検査のような意味合いでの検査を、しかも事業者が自前で行えなければならないのです。
・千代田化工建設「試運転(Commissioning)」
http://www.chiyoda-corp.com/service/plant/trial.html
> 試運転を計画的に行い、短期間で確実にプラントを商業運転の状態に持っていくことは顧客の利益向上に大きく貢献することから、試運転は顧客満足度を決定付ける、最終にして最大の業務と言えます。
> 試運転はプロジェクトの最終段階の作業ですが、プロジェクト初期段階から責任者を任命し立案、計画していきます。最近では過去のトラブル事例を綿密に分析し、得られた問題再発防止のための対策を設計、調達、工事、試運転の全ての段階での業務に講じて遂行する新たなコンセプトのプロジェクト品質管理プログラム、アンインターラプティッド スタートアップ (Uninterrupted Startup)プログラムを適用するプロジェクトが多くなってきています。新しく開発されたプロセスでは、試運転時に起こるトラブル対応や運転に関する深い知見と分析力が必要となりますが、千代田の原因究明力と遂行力は顧客からも高い評価を得ております。
> 試運転の期間は顧客運転要員の訓練期間にもあたり、顧客や関係者と一丸となってプラントを立ち上げる感動はなにものにも代えがたいものがあります。
※ほとんどそのまま、鉄道の新型車両(量産先行車)の「試運転」にもいえることではないでしょうか。そして、「これからはアンインターラプティッド スタートアップ (Uninterrupted Startup)プログラムの時代だ!」といってドドドドド…いえ、鉄道車両ではいかなる品質管理プログラムが「走って」いるのか、ちょっと気になります。直訳すれば『切れ目のない立ち上げ』になるんでしょうけれども、うーん、「一貫して担当する態勢」とでも意訳してみたくもあります。E235系といえばこの人! というくらい、一人の人が一種「顔役」も務めつつ、全体に目配りするようなソレが、品質管理の上で「書類1枚」よりもはるかに効くのかもしれませんし、効かないのかもしれません。
・コミッショニング(Commissioning)
http://www.weblio.jp/content/commissioning
> 国内では2004年に空気調和・衛生工学会(コミッショニング委員会)により初めてコミッショニングのガイドラインが整備されている。「性能検証」と訳される場合があるが、内容は検証にとどまらない。
> これ以外にも、特に海外および外資系の企業では、コミッショニングを「機器・装置・車両などを搬入、設置し、試運転や動作試験までを行って、顧客からOKをもらう仕事」という意味で、サービスやメンテナンスと同列の用語として使用することがある。
・日本経済新聞「鉄道保安監査でミス34件 総務省、見直し勧告」(2015年11月27日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26HD4_X21C15A1000000/
> 国交省は定期検査の記録は膨大なため、抽出調査にならざるを得ないことが見逃しの理由と説明。一方、総務省は記録を丁寧に読み込めば発見できたものもあったと判断、改善を求めた。
> これとは別に、保安監査後の鉄道会社の対応を国交省が十分に点検していないと指摘した。
※自ら検査することや、その態勢を監査することのむずかしさについては、「秤座のOB」([3107])、環境省の綱引き([2997])なども参照。
・「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」(現行)
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxrefer.cgi?H_FILE=%95%bd%88%ea%8e%4f%8d%91%8c%f0%8f%c8%82%4f%82%50%82%4f%82%4f%82%4f%88%ea%8c%dc%88%ea&REF_NAME=%93%53%93%b9%82%c9%8a%d6%82%b7%82%e9%8b%5a%8f%70%8f%e3%82%cc%8a%ee%8f%80%82%f0%92%e8%82%df%82%e9%8f%c8%97%df&ANCHOR_F=&ANCHOR_T=
> (客室の構造)
> 第七十三条 客室は、次の基準に適合するものでなければならない。
> 二 客室内は、必要な換気をすることができること。
> 五 座席及び立席は、列車の動揺を考慮し、旅客の安全を確保することができること。
> (新設した施設、新製した車両等の検査及び試運転)
> 第八十八条 新設、改築、改造又は修理をした線路及び電力設備は、これを検査し、試運転を行った後でなければ、使用してはならない。ただし、軽易な改築、改造又は修理をした線路及び電力設備並びに本線に支障を及ぼすおそれのない側線にあっては、試運転を省略することができる。
> 2 災害その他運転事故が発生した線路及び電力設備で故障の疑いがあるもの並びに使用を休止した線路及び電力設備で列車等を運転する場合は、あらかじめ当該線路及び当該電力設備を検査し、必要に応じ、試運転を行わなければならない。
> 3 新設、改造又は修理をした運転保安設備は、これを検査し、機能を確かめた後でなければ、使用してはならない。災害その他運転事故が発生した運転保安設備で故障の疑いのあるもの及び使用を休止した運転保安設備を使用するときも、同様とする。
> 4 新製又は購入をした車両及び改造又は修繕をした車両は、これを検査し、試運転を行った後でなければ、使用してはならない。ただし、軽易な改造又は修繕をした場合は、試運転を省略することができる。
> 5 脱線その他の運転事故が発生した車両で故障の疑いがあるもの及び使用を休止した車両を使用する場合は、あらかじめ、当該車両を検査し、必要に応じ、試運転を行わなければならない。
試運転に関しては、いま絶妙に、分散していた条文を集約しただけでしょ、と受け止められましょう。
本来の意味で(古典的な、の意)「試運転」であるのは、運転士や車両基地の検査担当者など、あくまで事業者の係員だけが乗っての本線走行だけで、これを指してNHKでは「試運転で1万キロ」と報じています。(そして、このほかの運転・走行については「試運転」という用語は使っておらず、うーん、スバラシイ! といって、その用語の厳密さに「感たん」されます。)
さて、仮にも車両に、事業者の係員でない者を乗せるということは、ダイヤ上「試運転」とされても、法令上は「運行」(臨時列車と同類のソレ)である、ということになるんではないかとみられます。(詳しいかたにあられまして補足いただけますと幸いです。)
※メーカーの人などが「ヘルメット姿」([3087])で乗り込むにも、乗車券を買って(自分では買わないとしても)乗るんでしょ、と決めつけます、の意。
NHKで報じられている「40%」は、水槽で重量を模擬する都合で、それ以上の乗車率は模擬できないんだとする米袋…いえ、コメントもみられます。なぜ、実際に人を乗せて、「90%」や「250%!」の乗車率を模擬…いえ、乗車率を一種『身をもって体現』することができないのでしょうか。
定員のうち、40%が「着席定員」(=座席の数)で、60%が「立席定員」(≒つり革や、つかみ棒の数:全車両に設けられたベビーカーのスペースをどう数えるのか不明)だとしますと、なかなか絶妙に「頭痛が痛い」ヘラクレス([3089])…いえ、自席に戻って頭を抱えたくなる「お立場」が想像できようかと思います。(あくまで想像です。)
・「客先の自席に戻る」
https://twitter.com/tyr_poni/status/649098659162800128
・『お客様先』
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1037734520
※出先→どこに?→「客先」→ていねいに!→「お客様先」という「変せん」ですね、わかりますわかります!
・「出先」
http://ejje.weblio.jp/content/%E5%87%BA%E5%85%88
※「at the place where one is staying; when one is away from the office」のほうの意味で、一種「(連日の)直行直帰」とも…いまは(いまさら)言わないという、「ブラック」とも何とも…ゲフン。
・「直行直帰」
https://kotobank.jp/word/%E7%9B%B4%E8%A1%8C%E3%83%BB%E7%9B%B4%E5%B8%B0-179282
・(参考)「車両の臨時運行を受けるには」
http://www.city.iiyama.nagano.jp/soshiki/shiminkankyou/shimin/sonota/unko.htm
※え゛ー、飯山市では「臨時運行」を受けられるんですか。それでも一応、意味はわかります! …などと受けてみます。もっとも、現場にあっては「○○受けといて」「○○受けましたっ!」「○○受けてませんっ!!」などと一種『活用形』が使われていそうです。この限りにおいては、「臨時運行を受ける」というのも正しい日本語なのだと想像されます。
道路と鉄道は、絶妙に似ているようで全然まるっと別物であるということに注意しながらも、法制度(省令や事業者の内部規則などを含む)の設計としては、共通したココロがある、…(理想的には)はずです。
部外者としましては、詳細な規則までは承知のしようがないので恐縮ですが、道路に準じれば(※歴史的には逆で、鉄道の法律が先にあり、道路も航空も船舶も鉄道に準じている、と解説されます)、立席定員は、道路では路線バスのみに特例的に認められているものです。鉄道でも、例えば団体臨時列車で、着席定員を超えての乗車はゼッタイに認めないとする規則など、あるのではないかと想像されます。(あくまで想像です。)
※車両の換気装置の性能について、定員の2倍以上に対応すべし、とする解説もみられます。しかし、乗車率が200%を超えたまま長い時間、窓もドアも締め切ったまま、ということまでは想定されていないようです。この点からは、途中駅でドア扱いを行なわない試運転では、換気装置の性能が「カツカツ」になってしまう恐れがあるため、あまりに高い乗車率での長時間にわたる試運転はできそうにないのかなぁ、とも想像されます。(あくまで想像です。)
いわゆる「営業運転」(特例的に、立席定員や、定員を超えての乗車が容認される)に供する前の段階で、係員でない人を乗せるとあらば、「団体臨時列車」の扱いにせざるを得ず、そうすると着席定員を超えてはならない、そして乗車率は「40%」(着席定員)を超えることができない、などと順を追って早合点されます。(とはいえ早合点です。)
ニュースでは「走行試験で想定した乗車率が十分だったかどうかについても調べることにしています」と報じられていますが、これ、どれだけ難しいことであるのか、ちょっとあれですが、それらしく想像してみましょう。(あくまで想像です。)
・0. 着席定員を超えない、乗車率「40%以下」で「試運転」するには:団体臨時列車と同じ扱いで、乗車区間の乗車券を発売し、ただし事業者やメーカーが集めた実験協力者(公募せず)を乗せることになりましょう。運賃は、事業者が自ら負担するはずです、たぶん。
・1. 立席定員を含む、乗車率「100%以下」で「試運転」するには:営業運転と同様、旅客が納得して立席で乗車するというタテマエが必要とみられます。「試運転」で「100%」するためには、実験協力者を保険に加入させる必要があるのではないでしょうか。(その費用は事業者が負担するはずです、たぶん。)また、そのようなもろもろの要件を新たに定める必要もあるかもしれません。
・2. 定員を超える、例えば乗車率「180%程度」(※)で「試運転」するには:保険加入だけでは、仮に実験協力者がケガをした場合、実験実施者の「落ち度」(過失、重過失)が問われます。(刑事的にも問われます、たぶん。)全員にヒザやヒジのプロテクター、それにヘルメットなど、まさに『鉄ぺき』のソレで臨んでいただく必要がありましょう。1回の「180%試運転」だけのために、そうした一種『装備品』(第1種装備品などと…略)が「2414着!」(E235系11両編成の場合:1724×1.4)も要るという…(「買いきり」ではなく)レンタルされたいですね、わかります。
※試運転で、非常ブレーキによる急停止を行なうという前提であります。仮に、実際に人を乗せての「試運転」が行なわれるとしても、漫然とつり革に手首をひっかけて新聞や本を読んでいればいい、というものではないはずです。
※上述の換気装置の性能など、もろもろ勘案の上、やはりマージンを確保して、180%くらいが限度なのではないかと仮に推定しました。180%を超える乗車率は、あくまでピーク時に、ほんの数駅、ほんの数分の間だけ、かろうじて許される(しかし誰も許したいとは思わない)値で、これを前提とした実験を行なうことは、ほぼ考えられません、と仮に考えました。本当でしょうか。
わかりやすく「命名!」するとしますと、0.が「コンプラ試運転」、1.が「特認立席試運転」、2.が「エクストリーム試運転」とでもなるでしょうか。(感想は個人です。)
・東京メトロ&ぐるなび「#エクストリーム出社 を体験! 早朝の築地で寿司とカレーを食べまくってきた」(掲載日不明)
http://www.enjoytokyo.jp/solo/detail/200/?__ngt__=TT0b6abe630001ac1e4a0f3a4sWlpYHeTdprhUCkC5UzzQ
・「E235系が団臨で横須賀線に入線」(2015年11月30日)
http://railf.jp/news/2015/11/30/201000.html
11月29日に運行された「びゅう旅行商品」としての品川−横須賀間の往復では、絶妙に0.と1.の中間といいますか、間接的には旅行商品の側に保険がついてます(費用はすべて参加者が負担!)、という、正攻法とはいいがたい一種『苦肉の策』的なものが漂うような気がします。(見解は個人です。)団体臨時列車といっても車両が『通勤形』でロングシートですから、「走行中は必ず着席してください」とアナウンスしたとしても、車内で「走行!」される「小さなお客さま」など、防ぎきれないのではないかと容易に想像されます。(中学生以上の「大きなお客さま」が「車内を走行!」するのは論外でゴザイマッス。)
「調べることにしています」とは報じられつつも「検討していくとしています」などとは報じられないことから、そのあたり「上」のほうの冷めた「温度」とも「空気」ともいいがたい何か的なものがうかがわれるような気がいたします。本来、1.や2.のような「現実的な試運転」を、しかも安全に、法令上の不備もなく、あるいは逆に、法令に不備があるんだといって、もっと適確で過不足のない(ヘラクレスの考察[3089]も参照)法令への改正を求めていくような、という意味で、もっと「上」が一種『汗をかく』ことが、実は期待されているんではないかと、勝手に期待してみます。(あくまで期待です。)
・「苦肉の策」「枠をはみ出す」「つり革に手首」
http://futsuu.exblog.jp/14632969
・「落とし穴」「等も含めて検討していくとしています」「っていきたい考えです」
http://www.tv-tokyo.co.jp/mv/wbs/feature/post_92545/
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