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[2963]で触れました、東京メトロ東西線・南砂町の工事に関して補足です。
・[2963]
> と、特段、目新しい工法が使われるというわけでもないのでしょうか。
ちょうど、こんな記事が出ました。
・日経BP「混雑率ワースト返上なるか、東西線で進む大改良」(2014/10/24)
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/knp/news/20141021/680809/?P=5
> 駅周辺は地盤が軟弱なため、掘削の前に既存の駅部分の下も含めた地盤改良を施す。
> 地盤改良は、地下に差し込んだパイプからセメントを超高圧で噴射し、回転させて周りの土とかき混ぜる「高圧噴射撹拌(かくはん)工法」を採用。既存の躯体の下もこの工法で地盤改良するが、駅の下には地上から直接パイプを差し込むことができないため、軌道部分に小さな穴を開けて施工するという。
「あわせ技」といいましょうか、地下鉄の駅を後から拡張する工事としては目新しいものの、個々の工法自体は目新しくない、と理解してよいでしょうか。一方、シールドトンネルを一部壊すことになる木場駅の工事は、きちんと目新しいといえます。(「世界初」とのことです。)
※もっとも、こんな工事が後世、必要になるというのは、建設当時の設計が貧弱であった(将来予測の手法が未確立であった)ということの裏返しでもあり、これはいまでも確立しているとはいえない部分です。コンクリートの土木構造物をも、まるで木と竹と紙と土でできているかのようにパタパタと、時代に合わせて造り変えながら使っていくというのは、現代の日本ならでは、なのかもしれません。ちょっと「和」で「匠」な話ですね。
・鹿島「曲がりボーリング式薬液注入工法「カーベックス工法」」
http://www.kajima.co.jp/tech/c_harbor/improvement/index.html
> 鹿島とケミカルグラウト(鹿島グループ会社)が開発したカーベックス(CurveX)工法は、曲がりボーリング技術を用いることで、タンク、護岸、鉄道等の既設構造物の直下の軟弱地盤を改良することができます。地下の障害物を避けながらボーリング孔を自在に削孔し、薬液注入工法によって地盤改良を行うことができます。
グローバルに売り込めそうな名前ですね。逆にカタカナで書くと意味がわからず。「壁っくす?」と思ってしまったり、思わなかったり。それはともかく、「曲がりボーリング技術」がすごいです。まさしく夢の「自在もぐら」といえます。立坑なしで水平ボーリングでき、固定費を圧縮、工期も短縮できるとのこと。立坑するには空地が要りますし、掘ったら埋め戻さなければならず、その間に土砂を保管する場所も要ります。これがすべて要らないというのは大きいですね。
> 2001年の工法開発以降、豊富な施工実績(2013年現在で延べ30件程度)
件数からみて、主にタンクへの適用が中心で、護岸がぼちぼち、鉄道ではまだまだ、といったところでしょうか。鉄道への適用が広がれば、一気に件数が増えそうです。
※とはいえ、そんなの件数なんて、そんなもの(※)、数字だけで多いの少ないのとは一概にいえません。「延べ」の件数とはいえ、全国の石油コンビナートの数を考えれば、かなり多いといえるはずです。
・個人のブログ「ただちにスパゲティとまではいえない」(2014/2/21)
http://tht.sblo.jp/article/87999049.html
> 40倍を超えるPVを記録した。
> 0が6個あっても国内のB社は「ベンダ」とは呼ばれず、残念なことに「メーカー」と呼ばれる。
・個人のブログ「「タウリン1000mg」と「末端価格3億円」 」(2012年12月3日)
http://ashes.way-nifty.com/bcad/2012/12/1000mg3-80c6.html
> 「8217マイクロシーベルト」という報道に「タウリン1000mg的な表現」という批判がなされている(ミリシーベルトを使えば8.2に収まるから)。
> 「億円」と聞けば「すごく大量」と感じないだろうか。
理科でいうところの「有効数字」ですね。4桁もとれるなんて、すごい測定精度ですねぇ(あなた、そんなに高級な測定器持ってるの? それとも若いから目がいいのかなぁ、いいですねぇ)、などと、とりあえずイヤミを言ってみる(そして考えさせる)のが、理科の先生の仕事です。
・木村勇雄「有効数字の簡便な扱い」
http://www.gs.niigata-u.ac.jp/~kimlab/lecture/numerical/index.html
・個人のブログ「東京メトロ東西線南砂町駅改良工事(2012年2月18日取材)」(2012/2/25)
http://mirai-report.com/blog-entry-1122.html
> 合計で400億円という多額の投資が必要な事業となっており、まさに東京メトロ全社を挙げた一大プロジェクトといっても過言ではない
…うーん、うーん。かなり難しいことをおっしゃっていると思いますよ。もしかすると「過言」かもしれません。
「鉄算用」(「とあるケモノの皮算用」のひそみにならって)と称して、この手の大きな金額のインパクトをなるべく客観的に理解しよう(したいなぁ)という話をブログでまとめようとしていたところでした。
わかりやすいのは、大きな金額を、モノの数に置き換えて把握することですね。鉄道で言えば、ちょうど通勤電車1両の製造費が約1億円とされています。400億円は、通勤電車400両分です。10両編成でいえば、40編成分です。多少の多少はありますが、概ね路線1つ分といえるかと思います。
どんな電車も、15年くらいで寿命を迎え、そのつど1両1億円をかけて更新(リプレース)されます。この観点では、広い意味で「消耗品」です。路線が1つあれば、必ず15年ごとに400億円はかかるのです。そして、路線が15つ(!)あれば、毎年400億円ずつかけて車両を新造し続けていくことになります。
この、路線が15つ(!)あって、毎年400億円かけて車両を新造するという架空の鉄道事業者を、1モル…いえ、1つの基準となる単位(ユニット)として考えてみるとよいでしょう。ここでは仮に「タヌキ」という単位を導入します。JR東日本は1/2タヌキ(ハーフタヌキ:毎年200両くらい新造、として)、東京メトロは1/10タヌキ(毎年40両くらい、として)くらいになるでしょうか。
仮に、毎年の車両の新造数という指標だけをもって「事業規模」を表すことができるとすると、東京メトロの事業規模は、JR東日本の1/5ということになります。展開しているエリアの面積を考えると、東京メトロがとてつもない「お化けタヌキ」である、ということになります。本当でしょうか。
ここから、東京メトロでの400億円の工事は、JR東日本でいえば2000億円の工事に相当する、ということができます。JR東日本では耐震補強が5年間で3000億円とのことですから、その2/3にあたります。そのくらいの額を、東西線だけでいっぺんに使う(そのうち85%にあたる約340億円を南砂町だけで使う)とみれば、確かに「多額」の、すなわち集中的で重点的な投資といえます。ここまでなら「過言」ではないでしょう。
しかし、落とし穴があります。
売上(=「営業収益」:配当金などの「営業外収益」を除く言い方)や、留保金といったもの、つまり、どのくらいもうかっていて、どのくらい蓄えがあるのかということが、ここまでの計算にはいっさい、含まれていないということです。
・東京メトロ「会社概要」
http://www.tokyometro.jp/corporate/profile/outline/index.html
> 売上 3,436億円(平成24年度)
・JR東日本「会社要覧」
http://www.jreast.co.jp/youran/pdf/2013-2014/jre_youran_gaiyou_p4_5.pdf
> 営業収益 2012年度 2‚671.8 [10億円]
(2兆6718億円)
売上でみると、東京メトロはJR東日本の12.9%(JR東日本は東京メトロの7.8倍)になります。月額に換算しますと、東京メトロは286億円、JR東日本は2227億円となり、うーん、高すぎて上のほうがよく見えない、といって目をこすっておくことにしましょう。
もっとも、売上だけを比べて「何倍もうけている(だからすごい)」などというのはナンセンスで、JR東日本は東京メトロ7.8社分の「支社」を抱えている、あるいは支社単位で東京メトロと比べると、東京メトロのほうが「すごい」部分もある、といったことになってきます。
後述しますが、東京メトロを年収344万円なり月収28万6000円なりという1人の「人」(世帯)にスケールダウンしてみようというとき、これになぞらえて機械的に(形式的に、数字の上だけで)、JR東日本を年収2700万円(月収222万7000円)の「人」とみなして「セレブだ」などと騒ぐのは、愚の骨頂といえます。むしろ、月収22万3000円の人(世帯)が10人(世帯)入っている団地(社宅でもいいですが)のようなものがJR東日本だといえるでしょう。
・新京成電鉄「会社概要」
http://www.shinkeisei.co.jp/corporate/company/outline.html
> 売上高 平成25年度 151億円
東京メトロは、基準にするには大きすぎますので、むしろ、「準大手私鉄」と分類される、すなわち、あらゆる鉄道事業者の中で「中央値」といいましょうか、電気料金の値上げのニュースに出てくる標準世帯的な何かとみなすことのできる新京成電鉄を1つの単位とするほうがよさそうです。1タヌキ…いえ、1ドングリとしましょう。東京メトロは22.8ドングリ、JR東日本は176.9ドングリとなります。大きいですね。
・「準大手私鉄」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BA%96%E5%A4%A7%E6%89%8B%E7%A7%81%E9%89%84
・「どんぐり銀行」
http://www.benelic.com/company/donguri_bank.html
・成田国際空港(NAA)「2009年3月期・決算概要」(2009)
http://www.naa.jp/jp/ir/pdf/pdf20090518_setsumei2.pdf
成田空港会社の子会社である芝山鉄道と成田高速鉄道アクセスの合計で、営業収益(売上)が2億円(2009年3月期)とのことです。1.3×10(-2)ドングリ、0.01ドングリ、つまり1/100ドングリとなります。小さいですね。
・個人のブログ「1000個のドングリは何グラムか」(2010/11/28)
http://chesterfield-va.blogspot.jp/2010/11/1000.html
> 最初に十個計測してみると41グラムとなったので、まあ1000個では約4キロだろうと予測していた。
> 「1000個とったよ〜」と言って作業の終了を通知してきたため、こちらも統計学的な興味にかられ嫁さんに頼んで庭のポーチまで体重計を出してもらってドングリ千個の重さを計測!いくらだったでしょう?
> 答えは約3.8キログラム。
1個平均3.8gとして、東京メトロは86.6g、JR東日本は672gになります。森の動物にとってのどんぐりを、人にとって、例えば牛肉とすると…食べきれないほどの量ですね。一方、成田空港会社の鉄道事業は0.04g、とはいえ、なくてはならない貴重なものです。
・「食用金箔 0.04g 900円」
http://www.cuoca.com/item/020112.html
> 羽のように軽い薄片なので、0.04gと言っても、たっぷりとお使いいただけます。
食用金箔と牛肉を、重さだけで比べることはできないとわかります。モノやサービスの価値を単一の指標だけで決め付けることはできず、常に多面的に見ていくことが重要だといえます。
東西線に関する一連の投資の総額である400億円は、東京メトロの売上1.4月分に相当することがわかります。いわば、月収が28万6000円の人(世帯)が一度に(単一の費目で)40万円の買い物をしたようなものといえます。いま、40万円で何が買えるでしょうか。
・三菱鉛筆「ユニスター(紙箱)」
http://www.mpuni.co.jp/products/pencils/black/uni_star/uni_star/k.html
1ダース(12本)720円ですので、555ダース(6660本)ほどお買い求めいただけます。国際協力的な何かで、大量の鉛筆を買う(そして現地の学校に贈る)人も、世の中にはそれなりにいらっしゃるかと思います。でも、気まぐれといいますか、焼け石に水といいますか、もっとコンスタント(定常的)に鉛筆が供給されるスキームを考えるほうが有益なように思います。例えば、メーカーで出荷できない不良品を無償で贈る、そのための送料を寄付するほうが、合理的なように思います。
…というのは余談ですが、消耗品を40万円も買おうというのは尋常ではありません。どういうねらいか、何か企んでいるのではないか(横流しでもしようとしているのではないか)と、監査を受けることでしょう。ましてや、お化け、いえ、「オマケ」を目当てに大量のポテトチップスを買い込んだ挙句、食べもせずにそれを すてるなんてとんでもない! …このようなことを防ぐために、おやつは300円まで、消耗品は10万円までと、あらかじめ決めてあるのです。
・「それをすてるなんてとんでもない!」
http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%82%92%E3%81%99%E3%81%A6%E3%82%8B%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%A6%E3%81%A8%E3%82%93%E3%81%A7%E3%82%82%E3%81%AA%E3%81%84!
・窓の杜「300円クエスト」(2013/9/12)
http://www.forest.impress.co.jp/docs/serial/nicogame/20130912_615114.html
かの不法投棄事件(約1000袋、約200kg、計89箱で、30万円相当とのこと)では、購入の意図も問いたださないまま、個人に大量のポテトチップスを販売してしまった側(コンビニとのこと)にも、落ち度がある(罰則はなくても、民事上の責任を問われうる)といえます。商品を企画・発売した側(※)としては、ケース売りをしない、すなわち大量購入をしにくくする販路という意味で、コンビニに限定していたのでしょう。コンビニとしての管理責任が問われてくる話かと思います。
※企画側の法務部門がいかほどのものかは不明ですが、発売側は大手菓子メーカーですから、当然、これまでの蓄積があることでしょう。
上述のような「落ち度」や「抜け道」的なものは別として、通常、40万円という金額からは、「売ってもらえない」「(組織内のポリシーで)買ってはいけない」という制約が加わってきます。安いものをたくさん買うことは許されず、かといって高いものは買えず。かなり難しい額ともいえます。
・JAL/ジャルパック「30〜40万円のツアー一覧」
http://intltoursearch.jal.co.jp/jal_intl/landing/SP_RANGE6/?JAL_HEADER=1
ハワイで7日間、見晴らしのよいホテルの高層階の部屋がとれる、ぜいたくな海外旅行1回分です。ぜいたくですねぇ。これなら「全社を挙げての一大」と形容したくなります。でも、ぜいたくです。東西線への投資はぜいたくなんでしょうか?
浴室の浴槽と給湯器を取り替えるリフォーム工事が、約40万円とされています。毎年でなく、15年や20年に一回の40万円となれば、こんなものかな、となり、むしろ、ここをけちって、無理や我慢をしていては、毎日いろいろと不便や不満が募ることでしょう。ぜいたくではなく、妥当な40万円で、金額は大きいものの「全社を挙げて一大」とまでいってしまっては「過言」のような感じもしてきます。
※よい例えかはわかりませんが、年間の研究費が約286万円くらいの研究室で、約40万円の測定器を買う、といえば、そんなものかな、と感じられるのではないでしょうか。
・ツイッター(2014/1/20)
https://twitter.com/7N1GPI/status/425256152599785472
> 「トッピング きつね fox 50円」
アマチュア無線な方も、この手の話(自販機のボタンとか、日英対訳とか、古文とか古地図とか、東京の坂とか、マンホールのフタとか、フォントとか)、大好きですよねぇ。何の因果でしょうか。それはともかく、40万円あれば…いえ、食べものは食べきれるだけ。これが鉄則です。「メガきつね」なんてとんでもない!
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