フォーラム - neorail.jp R16
発行:2015/8/13
更新:2016/7/24

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「旅行者よ、大きなカバンを抱け」?


「修学旅行事務処理の流れ」と「旅行業法」
「憤る」にも権限が要る
40人を超えない「小さな修学旅行」
こんなこともあろうかと「プランB」
団体客らしさ、旅行者らしさの「記号」

(約21000字)

 この件、「事件」でも「事故」でもないと思っていましたので、そろそろ冷めてきたころだとみて、いま、取り上げます。そして、鉄道(の事業や事業体、技術など)の話でなく、主に言葉や言葉、それに「記号」の話です。

・千葉日報「乗車途中ドア閉まる JR成田駅員が勘違い 修学旅行出発の中学生ら乗れず」(2015年6月17日)
 http://www.chibanippo.co.jp/news/national/262200

 > JR成田駅で今月、修学旅行で特急成田エクスプレスに乗り込もうとした香取市立栗源中学校(同市岩部、須藤壮輝校長)の3年生や教諭らの一部が、電車のドアが閉まり、ホームに取り残されていたことが16日、学校などへの取材で分かった。信号機トラブルもあって生徒らは東京駅で予定の新幹線に乗れず、訪問先の一つに行けなかった。学校側は「うっかりミスでも影響は大きい」と憤慨。JR千葉支社は「再発防止へ社員の管理と教育を徹底したい」としている。

 > 学校などによると、京都・奈良方面への修学旅行は10日から2泊3日で実施。3年生33人らが10日朝、成田駅で東京駅に向かうため成田エクスプレス(12両編成)に乗り込んでいたところ、途中でドアが閉まり、生徒21人や須藤校長らがホームに取り残された。

 > 取り残された生徒らは後続の成田エクスプレスに乗車。この電車でも定刻通り東京駅に到着すれば、乗車予定だった午前10時23分発の修学旅行生専用の新幹線に間に合うはずだったが、JR戸塚駅での信号機トラブルに巻き込まれ、東京駅に着いたのは午前10時35分。生徒らは別の新幹線で京都に向かったが、到着が遅れたため、コースに入れていた京都府宇治市の平等院鳳凰堂に行けなくなった。

 > 同支社によると、成田駅で乗降を確認する駅員が生徒らの乗車の列が途切れたのをモニター画面で見て、乗車が終わったとの合図を車掌に送ったらしい。生徒らが乗っていたのは先頭の1両目だったうえ、駅がカーブしていることもあり、駅員がいた11両目付近からは目視できないという。

 > 須藤校長は「生徒にとっては一生に一度の修学旅行。うっかりミスかもしれないが、影響は大きい。不安も招いた」と憤る。同支社は「再発防止に向け社員の管理と教育を徹底したい」とコメントした。

 > JR側は修学旅行から戻った12日午後、学校を訪れ経緯を説明。きょう17日には学校で保護者対象の説明会を開くとしている。

・千葉日報「栗源中へJR謝罪 修学旅行トラブルで」(2015年6月18日)
 http://www.chibanippo.co.jp/news/national/262422

 > 修学旅行で特急成田エクスプレスにJR成田駅から乗り込もうとした香取市立栗源中学校(同市岩部、須藤壮輝校長)の3年生や教諭らが乗車中にドアが閉まり、半数以上がホームに取り残されたトラブルで、JR側と旅行会社は17日、同校で保護者説明会を開き、当時の状況などを報告し、謝罪した。

 > 説明会には、20人以上の保護者が参加。冒頭にJR側と旅行会社が謝罪し、学校側が当時の経緯を説明。同校によると、電車は乗車中に15秒ほどで前触れもなく閉まり、このうち一人の生徒がドアに挟まれそうになったという。

 > 一方、JR側は「当時、団体客がいたのは知らなかった。乗降時間は1分間ほどあった」と返答。「駅員が生徒の列が途切れたのをモニター画面で確認し、車掌に合図を送った」との説明を繰り返すにとどまり、「誠意が感じられない」(出席した母親)などと保護者らの不満が相次いだ。

 なお、大人にあってはついつい、「自分の修学旅行」と照らし合わせて「いまは『ぜいたく』だ!」などと断じがちですが、いえいえ、市販の旅行商品(ただし「びゅう旅行商品」を含む)の充実ぶりや、流行の採り入れの早さを見て実感されるように、修学旅行においても「旬」というものはあり、また、それを採り入れられるよう努力されてきています。いろいろなことがどんどん変わっていくことに対しては、とりあえず肯定的にゴキゲン([3093]、後述)…いえ、楽観的に楽しく見ていけばいいんではないでしょうか。

・肯定的にゴキゲンでぐっすり今日も元気だごはんがうまい、の3年間追跡調査(2008年)
 http://joh.sanei.or.jp/pdf/J50/J50_6_01.pdf

※専門でないので妥当性は検証できません。素朴には共感されますが、エビデンスとしてはよくわからず、という状況で、恐縮です。

・関東地区公立中学校修学旅行委員会「平成23年度 修学旅行の実施状況並びに「感性をはぐくむ修学旅行」の取り組みについてのアンケート」
 http://shugakuryoko.com/shui/kan-shui/chosa/kanshui2011-01-kousatsu.pdf

 > ここ何年来、専用列車の広島コースの利用について希望を取ってきた。長年JRとの交渉を重ねてきた結果、専用列車が25年度から実施される運びとなった。

 2013年度から、東京発でJR西日本に直通する(新幹線の)修学旅行列車を運行してもらえることになりました、ということですね。この話で、「交渉」の相手方を単に「JR」と記すのは、たいへん雑すぎるようにも感じ、また文書全体を通して日本語がひどいようにも感じますが、そこは中学校の教員の集まりとして限界があるのかもしれません。(そんな勉強はしてきていませんです=中学校教員を志望する学生が、の意。)


●「修学旅行事務処理の流れ」と「旅行業法」

 「修学旅行」を楽しむ(いえ、学ぶ)当事者の生徒や児童としては(素朴に)「わあい」でいいんですけれども、大人(保護者、それに新聞記事の読者を含む)としては、法的な位置づけをきちんと理解しなければなりません。「修学旅行」という何か特別な制度があるのではなく、学校(教育委員会)が旅行会社に発注した「普通の旅行」です。

・(参考)「修学旅行・卒業アルバム」大分県教育委員会
 http://kyouiku.oita-ed.jp/kikaku/5_syuugakuryokou.pdf

 参照するのはどこの都道府県でも市区町村でもいいんですが(※)、「修学旅行事務処理の流れ」と「流れ図の説明・留意点」にある通り、各学校において校長を筆頭とする「修学旅行検討委員会」(名称は大分県の場合)を設置してから、教育委員会に「修学旅行終了報告書」(同)を提出して受理されるまでが修学旅行です。生徒が帰宅しただけでは終わらないんですね、わかります。「普通の旅行」を「修学旅行」たらしめているのは、教育委員会(と学校)における「事務処理の流れ」だとわかります。

※どこでも公開されているというわけでもないかもしれませんが、公開されていなくても、あたりまえすぎることですから、公開しているのがまずいということでもなければ、公開していないのがいけないということでもありません。

※新聞記者(後述)が次にすべきは、「修学旅行終了報告書」の情報公開請求をすることですね、わかります。生徒に対して取材すべきではありませんし、保護者の言い分も、それはそれです。

※一般に理解が広がっていない点としては、▼役職としての校長(具体的な人でなく規程などの上でのソレ)と、▼人物(その時その時に任じられた者)としての校長、それに▼役職に人物が収まった状態としての校長(権限が発揮される状態としての校長)が、特に区別されずに語られるということが挙げられましょう。用例ベースでいえば「校長を置く(と定める)」「校長を囲む会(給食、PTAの懇親会など)」「急病で校長が不在となる(教頭が代理を務める)」では、すべて「校長」の意味するところやスコープのようなものが異なっているということです。まったく同じことが「駅長」にもいえましょう。身近には「店長」や「班長」でもいいですけれども、この3つ、ちゃんと使い分けできていますか?

 (学校から見て)契約の相手方となる、旅行会社のほうも見てみましょう。

 旅行業は、旅行業法によって(業者に対し)義務が課されるとともに、(旅行者の)保護も図られます。

・観光庁「旅行業法」
 http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/sangyou/ryokogyoho.html

 > 旅行業務は比較的小さな設備で取り扱うことが出来ますが、その取扱額は必ずしも少なくありません。そこで、旅行業者や旅行業代理業者と旅行業務に関し取引をした旅行者の保護を図るため、法律により旅行者に一定の金額を営業保証金として供託することを義務付けております。

 > 旅行業者等は、営業所ごとに、一人以上の「旅行業務取扱管理者」を選任し、取引の明確性や旅行に関するサービスの提供の確実性、その他取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便の増進を確保するための必要な事項の管理・監督に関する事務を行わせることが義務付けられています。

 旅行が円滑に実施できるかどうかは、すべて旅行会社の責任で、そこを飛び越えて、保護者がJRを呼びつけるというのは、契約の仕組みを理解していないことを示しています。

 学校や教育委員会としては、円滑な実施がおぼつかないような旅行会社、いわゆる「タヌキツーリスト」が入札や見積もりに紛れ込まないように、しかじかの資格要件を定める(資本金、前年中の取扱件数や取扱高、中でも修学旅行に関する実績、県内や市内に支店があること等々、事実上、大手の数社だけに絞るような要件であっても、あくまで要件であって、大手の数社だけを名指ししたということには決してならないのです)ことになりましょう。

 とはいえ、大手とはいっても、旅行業は免許制ではなく届出制ですから、業者の質は一定程度しか保証されません(※)。うっかりすると公正取引委員会な案件にもなり、特に、何か新しいことや大きな変化があった時に、自分たちの「リーガルマインドのようなもの」が試されるというわけです。

※端的には「旅行業務取扱管理者」を置きさえすればよい=だから「タヌキツーリスト」も生き残れてしまう⇔そこをつぶせつぶせとはいえず、つぶしてしまえ、つぶれるべきであるといってはならないわけです。かといって旅行会社の「総合的な能力のようなもの」を認定したり認証したりするのもたいへんなことで、しかるべき規模や実績には相応の管理能力がともなっているはずだ、という前提があるわけですが、それを裏切る会社や粉飾する会社が出ないとも限りません。また、時代や社会が大きく変われば、政府や公社だけが旅行業を営んでよいとか、旅行するには一定以上の所得が必要だとか、あるいは「身分」によっては旅行が許されないといった「前近代」に逆戻り、ということもありえなくはありません。

・かわいいほうのタヌキツーリスト
 http://blog.livedoor.jp/happyfield7/archives/50136647.html

・公正取引委員会「株式会社日本交通公社ほか8名に対する件(平成11年(勧)第14号)」(1999年7月7日)
 http://www.jftc.go.jp/info/nenpou/h11/11kakuron00002-2-2-1.html

 > 関係人9名のうち,株式会社**交通社(以下「**交通社」という。)及び**旅行株式会社(以下「**旅行」という。)を除く7名(以下「7名」という。)は,平成7年4月ころ大阪府教育委員会が府立高等学校の航空機を利用する修学旅行を解禁したことを契機として,向上研究会等と称する7名の公立高校の修学旅行を担当する営業責任者級の者で構成する会合(以下「向上研究会」という。)において,航空機を利用する修学旅行における航空機の座席を確保するため,航空各社との一元的な交渉及び修学旅行に関する情報交換を行ってきた。

 > 8名は,大阪府における府立高等学校並びに大阪市,東大阪市,堺市及び岸和田市の各市における市立高等学校(以下「公立高校」という。)の修学旅行の安値受注を防止し,一定額の収益を確保するために,平成9年1月16日ころ,大阪市中央区久太郎町所在の大阪塗料会館で開催した向上研究会において,公立高校が平成10年度以降に実施する修学旅行の企画及び旅行サービスの手配に関して
 > (大幅に略)
 > 前記(i)から(iv)に違反した場合には,当該修学旅行の受注を辞退すること,向上研究会から除名すること又は過怠金を拠出することを決定した。

 > 排除措置
 > 9名に対し,次の措置を採るよう命じた。
 > (ア) 平成9年1月16日ころ及び平成10