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【研究ホワイトボックス】

研究を楽しく「追体験」! 真っ白のキャンバスに虹色の未来を描く方法、教えます。
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発行:2015/5/26
更新:2018/3/16

[3052]

【研究ホワイトボックス】

研究ホワイトボックス(2) 混雑の「実感」を研究するには(後編)


電車内の混雑状況を模した写真や映像を撮影する
混雑の「実感」を乗客の属性ごとに明らかにする
継続して「追跡調査」する

(約6000字)

 [3051]の続きです。

[3051]
 > 「混雑率の数字ではわからない『主観的な混雑度・不快感』」を定量的に扱いたいという目的があり、つまるところ客観的に主観評価(官能評価=できれば「快・不快」を評価)したいという目的があるわけです。評価者が自分で感じた体感(快・不快)を持ち寄って、評価者間のばらつきを埋めていくことが、本来なされるべき検討といえます。

 この話、ちゃんと実験して研究して論文にしてみたくなります(※)。欲ばりでしょうか。

※もちろん、実務者としてはすべて研究済みであって、「いまさら」でしょう。あくまで勉強や趣味として、あるいは、その他、鉄道の実務とは異なるベクトル、例えば心理学や社会学などとして取り組む場合の話です。

●電車内の混雑状況を模した写真や映像を撮影する


 混雑した電車内を撮影するということは、乗客が大きく映り、また乗客にカメラを向けるということそのものですから、乗客の肖像権が問題になり(安易に「加工」や「修正」を加えると、かえって権利の侵害になりかねません=通行人の顔に勝手にペイントするようなものです)、事業者であっても、自社線の混雑状況をおいそれとは撮影できない、ましてや(いくら研究といっても)公表する資料には使えない、といった制約があろうかと思います。

 ロケーションサービス(映画やテレビ向け)を活用する(使用料や立会いの費用がかかります)か、「Smart Station 実験棟」をお借りして(「車両」は「幅広車両」ではありませんが=そもそも借りられるんでしょうか?)、エキストラといいますか、乗客役の人を、車両の半分(あくまで写真が撮れればよいので全部でなくてよい)を「200ポイント」(混雑率200%超の「超混雑」!)にして見せることができる人数、呼んできて(ボランティアでお願いするには無理のある、指示が多岐にわたり「拘束感」が高い「仕事」になりますから、謝礼または日当が要ります)、極力、高分解能に(1人ずつ「乗車」してもらいながら、車内が「混雑」していく様を連続的に=詳しくは後述)撮影することが望まれます。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)で再生するための全天球カメラでの撮影(より臨場感※を持って没入させるための1分程度の動画を含む)もされたいところです。

※新聞やポリ袋がガサガサいう音、唐突に「うーん」とうなる人、スマホしつつカメラをジロッとにらむ人、等々。

・埼玉県ロケーションサービス「電車」検索結果
 http://saitama-ls.net/mt/mt-search.cgi?search=%E9%9B%BB%E8%BB%8A&x=0&y=0&IncludeBlogs=2&limit=20

※西武鉄道しか出てきません。埼玉県内のJR線やJRの施設では「ロケ」できない、というわけではないですよね。

・JR EAST Location Service(ジェイアール東日本企画)「車両センター」
 http://location.jeki.co.jp/location/categories/10/

・日本サインデザイン協会「これからこれからどうなる?駅と列車情報・・・・次代の駅づくり」(2012年12月3日)
 http://sdainter.exblog.jp/19606161
 http://sdainter.exblog.jp/19605349
 http://www.sign.or.jp/old/

※いきなり「エキサイトブログ」で驚きますが、確かに日本サインデザイン協会のサイトからリンクがありました。いくら簡便でも、外部のブログサイトを使われるのは、ちょっと(かなり)困ります。

・リコー「THETA(シータ)」
 http://theta360.com/ja/

 理想的には、路面電車やLRT、モノレール、大江戸線、一般の地下鉄の車両、JRの「幅広車両」と、2階建て車両、特急型電車、新幹線の自由席まで、網羅的に撮影されたいですね。「お盆の帰省ラッシュで、東京駅を発車する下り『のぞみ』では、乗車率がxxx%を超える列車も…」などといわれましても、映像では「列車に乗り込む家族連れ」「列車の発車シーン」、時間(枠)があれば「おばあちゃんちで虫取りするの楽しみ!」が映るばかり、「Uターンラッシュ」のニュースでも「(列車を降りて)スーツケースの上でぐったりする子ども」しか映らないわけですから、その「混雑」を体験したことのない人(※私はありません)には、どうにも実感がわかない話なのです。

 また、こうしてコストをかけて撮影された写真やVR動画は、研究者や組織によらず同じ素材を使って研究が進められるよう、広く共有・公開されることが望まれます。

 冬季の「着膨れ」や、乗客の手荷物などについては先行研究があるようですが、研究の結果だけがある(一種の古典=実務者にとっての「バイブル」のようなものとして)というのでなく、やはり、新しい研究が続々と続けていけるような、実験設計や実験中に得られたデータが、会社や専門分野を越えて広く活用されていくためのエコシステムのようなものの実現が望まれるかと思います。データを、例えばメーカーが鉄道車両の開発に使うためだけに保有しているというのは、もったいないことです。

※もっとも、提供されないなら、同等のデータを自前で用意すればよい、実測できないならシミュレーションすればいいという話で、「提供してくれないのはケシカラン」などとごねる必要はまったくありません。なければないなりに、いかに工夫するかが腕のみせどころになります。(研究に関しては)「持つ者」と「持たざる者」との「格差」は、「持たざる者」の側の努力によって埋めていくことが十分に可能です。(これが研究のいいところ、楽しいところでもあると思います。)

●混雑の「実感」を乗客の属性ごとに明らかにする


 混雑に関する「議論」がかみ合わない要因のひとつに、混雑の実感が人によって異なることがあります。普段から「満員の通勤電車」に乗り慣れている人と、あまり電車に乗らず、あるいは日中に乗ることが多い人などでは、どのくらいの混雑度(=体感的な圧迫感、と仮に定義します)で「混雑している」と感じたり、不快だと感じたりするか、その閾値が異なっているはずです。

 この問題は、「混雑ポイント」を策定しても解決しません。どのポイントでどう感じるかが人によって異なるという「揺らぎ」が、まだ残っているからです。

 そこで、いろいろな属性(年齢、性別、身長など体格、出身地、居住地、職業、通勤通学先など)の人に、上記の写真を見ながら、その閾値を答えてもらう実験をします(=してみたいな、という話です)。

 視力測定で遠近感を調べるアレ(「深視力」の検査)のように、連続的に撮影された混雑の写真を連続的に表示しながら、「混んでいる」「乗りたくない(降りたい)」などと思ったところでボタンを押してもらうような方法が考えられます。あるいは、連続的に表示させるのとランダムに表示させるのを両方やって比べたほうがいいかもしれません。

・コーワ「視覚検査装置 AS-7G」
 http://www.kowa.co.jp/e/life/product/vision01.htm#as_7g

 または、ランダムに提示したものを、3段階、5段階、あるいは分類の数を指定せずボトムアップに分類してもらい、閾値を探るという実験も考えられます。写真1枚ごとに、実際に何名が乗車時の写真であるかというデータがついている(というデータが前段の「撮影」で記録されているとします※)わけですから、どのくらいの乗車率を、評価者がどのくらいの「混雑」と評価するか、確率的なデータとして得られることになります。

※1両に360名、その半分で180名としますと、0名〜180名の181枚の写真を撮影することとなります。分解能が181のデータですね。えー、119名と120名で違いがあるの? と思われますが、いいえ、それでも概ね20名以下では1名刻みで見たいですから、そして、どこから上は2名刻みや3名刻みでもよいかは決めかねますから、ええい、ぜんぶ1名刻みでがんばるぞい、ということにするしかないわけです。アトミック(不可分:最小の単位)ですね、わかります。もっとも、車両半分での1名刻みですから、1両全体での2名刻みに相当する分解能といえます。また、現実的に180名はすべて大人とするしかなく、子どもの乗客については考慮できません。

 さて、数日間にわたる実験の結果、多数のデータが得られました(とします)。実験では、アンケートや聞き取りによって、各参加者の電車の利用状況や、電車に限らない「混雑」への「耐性」(慣れ、許容度)のようなものも明らかにしておきます。統計的にゴニョゴニョしますと、「○○な人は概ね混雑率○○%で『混んでいる』と感じる」といった「相関」のようなものがワラワラと出てきます。本当でしょうか…いえ、なかば自動的に出てくるのは本当ですが、そうして出てきたものが本当かどうかは、結局のところ、よくわかりません。それでも、こういう「相関」が出ましたといって、それだけを淡々と報告するのが論文というものです。

※繰り返しになりますが、これだけをやっても「(よくない意味での)車輪の再発明」です。その「先」が展望されていて、そちらで新規性を出せる見通しがなければ、取り組めません。

・「車輪の再発明」に関する個人のブログ(2014年6月30日)
 http://yasuho.hatenablog.com/entry/2014/06/30/120039

 > 例によって曖昧な定義だ。この「意図的に無視して」がポイントだと思うんだな。

 ウィキペディアの当該部分は、「かなりの悪意や欺瞞をもって『無視』する」ことだけを指している、意味の狭い表現であるように読めました。比ゆ的に「いい意味での『車輪の再発明』」と表現することは否定されませんが、もともとの「車輪の再発明」という慣用句に、いい意味もあると解釈することは、現時点では誤りとみなされることが多いように思われます。余談でした。

●継続して「追跡調査」する


 混雑の受け止めかたは、時代とともに変わっていると考えられます。混雑が緩和すればするほど、より低い「混雑率」でも、不快に感じられるでしょう。また、過度に低ければ、不安に感じられることもあるでしょう(※)。そして、その感じかたは混雑率だけで決まるものでなく、社会情勢(景気や雇用情勢)や治安(のイメージ)、乗客個人の個人的な状況(うれしいことがあった日といやなことがあった日など)、それらの統計的な偏り(地域や曜日による差、例えば月曜日)など、複雑です。

※恥ずかしながら、「ぷらっとこだま」の宣伝文句に乗せられて東京から京都までグリーン車(ドリンクチケット付き)に乗ったところ「ガラガラ」(広いグリーン車に私1名と、見知らぬ1名、そして席が近い=席は選べずとも指定されます)で、なかなか不安でした…という体験がございます。空いていればいいというものでもないんだと、このとき初めて実感されました。

・JR東海ツアーズ「ぷらっとこだま」
 http://www.jrtours.co.jp/kodama/

 近年スマホ([2996])…いえ、スマートフォンがあれば、「新聞を広げ」られなくてもニュースを読むことができ、人によってはそれなりに混雑を「しのげる」かもしれません。「グーグルグラス」をかけた人が平気で乗り込んでくる時代になったら、どうなってしまうのでしょうか。AR(拡張現実)で(こっそり)、寝ている乗客の顔に「落書き」をして遊んでいても、許されるのでしょうか。

・「寝ている人の顔に落書きしたことがある」
 http://kotonoha.cc/no/281233

・日本民営鉄道協会「混雑率」
 http://www.mintetsu.or.jp/knowledge/term/96.html

 混雑率の目安(定性的な表現)として「100%」「150%」「180%」「200%」「250%」の値が切り出され、「新聞」や「週刊誌」、また体を動かせるか(他人と触れるか)が、「肩」「体」「手」で表現されています。騒音や震度階級(棚から物が落ちる等)の説明と同じです。ここで、120%と150%が区別されず、100%の次は150%になっているのは、「目安」表現の策定当時(1984年?)、合理的だったはずですが、「新聞」や「週刊誌」がスマホに代わり、また高度経済成長期やバブル期と「ブラック」ないまとでは、乗客のマインドのようなもの(乗車以前に受けているストレス)も、かなり違うでしょう。平均身長など体格も変わっているはずです。また、250%超からの低減が目指された時代といまとでは「100%」の受け止めかたも違うことでしょう。

 時代とともに変わる状況(混雑率そのものでなく、その受け止められかたの変化)を明らかにするには、長期間にわたって継続的に、同じ調査や実験を継続することが求められます。この視点は、かなり公共的かつアカデミックなもので、車両メーカーや鉄道事業者が取り組むには荷が重いとみられます。NHKでいえば放送文化研究所にあたるような、そういう研究所は鉄道にはありませんので、事実上、いっさい取り組まれていないとみられます。

・丹青研究所レポート(丹青社・丹青研究所)「変わりゆく「博学連携」の形」(2000年)
 http://www.museum.or.jp/tanseiken/research/newspapers/21century/21century_04.html

・「昭和戦前期までの鉄道関係公文書について―運輸省所蔵公文書を中心として―」(1998年3月)
 http://www.digital.archives.go.jp/support/pdf/kaiteiban_kitanomaru30gou_P3.pdf

 鉄道(特にJR)では、あらゆる情報が「戦後」「民営化後」という「2つの断層」によって、検索問い合わせが難しい状況にあり([3031],[3033]など)、そこを補う役割の(旧)交通博物館や鉄道博物館も、なかなか難しいという中、せめてリアルタイムで残していける資料(調査や実験のデータ)はリアルタイムでしっかり作って、残していきたいですね、という話ですが、こういう話をすること自体が難しい(誰に向かっていえばいいかも定かでない)状況にあります。難しいですね。こうした状況下では、思い立った人がまずは自分で取り組んでみるほかなく、我こそはという方はぜひ、取り組んでみてください…などと(自分が何もせずに)いっては欲ばりでしょうか。欲ばりですね。


この記事のURL https://neorail.jp/forum/3052/


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